1マレーシア・デベロップメント・ブルハド

1MDB事件：マレーシアを揺るがした巨大汚職スキャンダル

1MDBとは

1マレーシア・デベロップメント・ブルハド（1MDB）は、2008年にマレーシア政府によって設立されたソブリン・ウェルス・ファンドです。エネルギー、不動産、観光、アグリビジネスなど、国内産業の多角化と振興を目的としていましたが、その裏で巨額の資金洗浄が行われていたことが発覚しました。この事件は、国際金融市場における大規模なスキャンダルとして、世界的な注目を集めました。

事件の発覚と国際捜査

2015年7月、ウォール・ストリート・ジャーナルが、1MDBからナジブ・ラザク元首相の個人口座へ約7億ドルが不正に振り込まれたとする公文書記録を報じました。この報道をきっかけに、マレーシア国内だけでなく、オフショア市場を含む各国の金融当局が、パナマ文書などを利用してグローバルな捜査を開始しました。欧米のメディアもこの不正を追及し、事件は急速に拡大しました。

2014年までに、1MDBは数十億ドルの債務超過と債務不履行に陥っていました。2012年から2015年の間に3つの会計事務所を雇用していましたが、資金の不正な流れは止まりませんでした。アブダビの債権者団体は14億ドルの未払いを公表し、監査が進むにつれて、1MDBから流出した資金がオフショア金融センターのペーパーカンパニーを経由し、首相のプライベートバンク口座に預けられていたことが明らかになりました。さらに、1MDBのビジネスパートナーにも捜査が及び、アブダビ投資庁とIPICが数十億ドル相当の社債を保証し、返済の肩代わりまで行っていたことが判明しました。ペトロサウジとの合弁事業から10億ドル以上が、マレーシアの再開発や経済成長に用いられず、スイス銀行の口座に振り込まれていた事実も発覚しました。

国際捜査の進展とナジブ元首相の関与

国際捜査団は、当初「Malaysian Official 1」という仮名を用いていましたが、2016年後半にはナジブ元首相の実名を使用するようになりました。ウォール・ストリート・ジャーナルは、選挙期間中の2013年3月にナジブ元首相の口座残高が巨額であったことを報じ、預金の出所はイギリス領ヴァージン諸島であり、IPIC名義のスイス銀行口座を経由して送金されたとしました。捜査団は、サウード家が横領の発端ではないかと疑いをかけました。政府の別の巨額の預金は電力会社からの収益でしたが、ナジブ元首相が管理する財務省へ送金されたことも判明しました。

マレーシア国内の混乱と国民の怒り

国際捜査が進む中、1MDBの財政問題は深刻化し、2015年12月には三段階の合理化計画が適用されました。債務整理のため、IPICとの資産交換やエドラ地球電力の売却などが行われました。2016年1月には、スイス司法長官が40億ドルの基金が横領され、中東とマレーシアの高官が保有する銀行口座に振り込まれたと発表しました。物価の高騰に苦しんでいた国民は、1MDBを利用した汚職が生活苦の原因だと信じ、怒りを爆発させました。2016年11月には数万人が首都でデモ行進を行い、首相のリコールを要求しました。元首相のマハティール・ビン・モハマドもリコールを提案し、市民団体は首相と司法長官の罷免を求めました。政府は情報統制を試みましたが、スキャンダルはもみ消されませんでした。

影の銀行と金融機関の関与

米司法省は、モルガンの他にウェルズ・ファーゴやドイツ銀行にも送金記録の提出を求め、捜査線上にゴールドマン・サックスが浮上しました。ゴールドマンは1MDBのために数百万ドルを融通しており、幹部が取引に関与していたことが明らかになりました。2018年11月、米司法省はゴールドマンの元幹部を起訴し、数十億ドルにのぼる1MDBの資金洗浄に関与したと発表しました。国際的な機関投資家が1MDBのオイルマネーを運用していた可能性も指摘され、サウジアラビアのクーデターも事件に関連しているとの見方もあります。

1MDB事件の本質

1MDB事件は、単なる汚職事件にとどまらず、環太平洋パートナーシップ協定の具体的な運用結果であるとも考えられます。国際的な金融機関と政治家が結託し、巨額の資金を不正に操作した構造が明らかになりました。この事件は、アセアン諸国における金融機関の機関化が進む中で発生し、マレーシアの資本市場が海外機関投資家の影響を受け続けていることを示唆しています。また、1MDBが財政の詳細を報告しなかった時期に、国際金融資本が仮想通貨を普及・推進したことも注目に値します。

その後の展開

2020年7月、クアラルンプールの高等裁判所は、ナジブ元首相に対し、7つの罪状で禁錮12年、罰金約52億円の判決を下しました。この事件は、マレーシアの政治と経済に大きな爪痕を残し、今後の改革の必要性を示唆するものでした。

まとめ

1MDB事件は、マレーシアにおける政治腐敗と国際的な金融犯罪が複雑に絡み合った巨大なスキャンダルです。この事件は、透明性の確保と健全なガバナンスの重要性を改めて認識させ、国際的な連携と監視体制の強化が必要であることを示唆しています。

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