ナステース

ギリシア神話に登場する人物、ナステース（古希: Νάστης）は、長母音を省略してナステスとも表記されます。彼はアナトリア半島南西部のカーリア地方を治めていた王ノミーオーンの子であり、アムピマコスという名の兄弟がいました。

トロイア戦争が勃発し、アカイア勢（ギリシア側）がトロイア市を包囲すると、ナステースは兄弟のアムピマコスと共に、自らの故郷であるカーリア地方の軍勢を率いてトロイアを救援するために馳せ参じました。彼らはトロイア側の有力な同盟軍として、戦争に参加したと考えられています。

ナステースのその後の運命や最期については、複数の古代の資料が伝えています。特に、古代の歴史家であるクレータのディクテュスが著したとされる『トロイア戦争日誌』においては、彼の死に関する具体的な記述が見られます。

ディクテュスの伝えるところによると、ギリシア軍最大の英雄であったアキレウスが、トロイア側のパリスとデーイポボスの策略にかかって命を落とした後、ギリシア軍は彼の遺体を戦場から回収しようと試みました。この重要な任務を担ったのは、大アイアースに次ぐ剛力の持ち主として知られる小アイアースと、老将ネストールの子であるステネロスでした。

アキレウスの亡骸が運び去られるのを見たトロイア側は、これを阻止するために激しく抵抗しました。この時、ナステースもまた、トロイア側の戦士として、アカイア勢と刃を交えました。ディクテュスの記録によれば、この遺体回収を巡る激戦の中で、ナステースは、デュマースの子アシオス、そしてナステース自身の兄弟であるアムピマコスと共に討たれたと伝えられています。兄弟揃って同じ戦場で命を落としたことになります。

このように、ナステースはトロイア戦争において、故郷カーリアから兵を率いてトロイアを助けに現れた英雄であり、その最期は、戦争における重要な局面の一つであるアキレウスの遺体回収時の戦闘であったと、ディクテュスの伝承は語っています。彼の物語は、アポロドーロスによる神話集や、ホメロスの叙事詩などを参照することで、その断片を知ることができます。

（参考文献：アポロドーロス『ギリシア神話』、ディクテュス『トロイア戦争物語』、ホメロス『イリアス』など）

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