ナタン・ミルシテイン

ナタン・ミロノヴィチ・ミルシテイン（1904年1月13日 - 1992年12月21日）は、ウクライナのオデッサで生まれたユダヤ系のヴァイオリニストです。英語読みではネイサン・ミルスタインとして知られています。彼は20世紀を代表するヴァイオリニストの一人として、その名声を世界に轟かせました。

幼少期、母親の勧めでヴァイオリンを始めたミルシテインは、11歳の時に名教師レオポルト・アウアーに見出され、ペテルブルク音楽院に入学します。アウアーの最後のロシア時代の弟子の一人となり、才能を開花させました。しかし、ロシア革命の影響でアウアーがノルウェーへ亡命すると、ミルシテインはキエフに戻り、そこでピアニストのウラジミール・ホロヴィッツと出会います。二人は意気投合し、頻繁に共演するようになり、1925年には西ヨーロッパへの演奏旅行を共にしました。この頃、ミルシテインはヴァイオリニストのウジェーヌ・イザイにも師事しています。

1929年、ミルシテインはレオポルド・ストコフスキー指揮のフィラデルフィア管弦楽団との共演でアメリカデビューを果たしました。その後、ニューヨークに拠点を移しましたが、ヨーロッパでの演奏活動も積極的に行いました。1942年にはアメリカ合衆国の市民権を取得しています。

ミルシテインは、その卓越した技巧に加え、豊かな音楽性と美しい音色で聴衆を魅了しました。ロマン派音楽の演奏はもちろんのこと、バッハの無伴奏ヴァイオリン作品の解釈でも高い評価を得ています。彼は多くの協奏曲のために、独自の華麗なカデンツァを作曲しました。また、ショパンの夜想曲をはじめとする数多くの作品をヴァイオリン用に編曲し、その才能を発揮しました。特に、パガニーニの主題に基づいた無伴奏ヴァイオリン作品『パガニーニアーナ』は、近年特に注目を集めています。

ミルシテインは、1975年にグラミー賞を受賞、1968年にはフランス政府からレジオン・ドヌール勲章を授与されるなど、その功績は高く評価されています。1992年、89歳の誕生日を目前にロンドンで生涯を閉じました。

超絶技巧の持ち主でありながら、それを前面に押し出す演奏スタイルを嫌ったミルシテインは、イザイから受け継いだ歌心と美しい音色を重視するフランコ・ベルギー楽派のスタイルを体現しました。その優雅で気品あふれる演奏から、「ヴァイオリンの貴公子」と称えられました。

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