夜想曲

夜想曲（ノクターン）

夜想曲（やそうきょく）とは、主にピアノ独奏曲として発展した性格的小品の一種で、文字通り「夜」を思わせる情緒豊かな楽曲です。英語では「ノクターン（nocturne）」、フランス語でも同じく「ノクチュルヌ（nocturne）」、イタリア語では「ノットゥルノ（notturno）」と呼ばれます。このジャンルの名称は、18世紀末から19世紀にかけて活躍したアイルランド出身のピアニスト兼作曲家、ジョン・フィールドによって初めて用いられました。彼はムツィオ・クレメンティの弟子であり、その後の音楽界に影響を与えました。

「夜想曲」という言葉は、ラテン語で「夜の」あるいは「夜に属する」を意味する形容詞「nocturnus」に由来しています。これはさらに、ラテン語で「夜」を意味する名詞「nox」の語幹「noct-」から派生したものです。興味深いことに、イタリア語の「ノットゥルノ」は、セレナードのように器楽合奏によって演奏される楽曲形式を指す場合もあり、夜想曲の概念には多様性が見られます。

歴史的発展と主要な作曲家

夜想曲はジョン・フィールドによって創始されましたが、この形式を芸術的に洗練させ、より自由でロマンティックな表現へと高めたのは、フレデリック・ショパンです。彼の作曲した一連の夜想曲は、現在このジャンルで最も広く知られており、夜想曲の代名詞とも言える存在となっています。ショパン以降も、ガブリエル・フォーレやクロード・ドビュッシーなどが管弦楽曲の分野で著名な夜想曲を生み出しています。

代表的な作品

夜想曲は独立した楽曲として書かれることが多いですが、交響曲や協奏曲、弦楽四重奏曲といったより大きな作品の一楽章として組み込まれることもあります。

独立した夜想曲

ピアノ曲

ショパン: 21曲の夜想曲を残しており、これらは今日最も有名です。ショパンの夜想曲は、おおむねA-B-A'の三部形式で構成されており、比較的演奏しやすいことから、彼の作品への入門としても適しています。発表当時から広く支持され、その洗練された優美なスタイルは現在も色褪せていません。時に深刻な表情を見せる作品（例えばハ短調のもの）もありますが、全体としては優雅さを保ちつつ、作曲者の個人的な感情を表現することが求められます。
夜想曲第2番変ホ長調 Op.9-2: 特に有名な作品で、CMなどでも頻繁に使用されます。8分の12拍子で書かれており、舟歌を思わせるような滑らかな旋律が主題となっています。主題が繰り返し現れる構成のため、内容としては比較的軽やかで、演奏や編曲が容易なこともあり、広く親しまれています。
夜想曲第20番嬰ハ短調遺作: 本来は夜想曲として出版する意図はなく、ショパンが自身の姉のピアノ練習のために作曲した小品と言われています。彼のピアノ協奏曲第2番からのフレーズが引用されています。感傷的な嬰ハ短調の冒頭に続き、協奏曲終楽章の第二主題が現れます。初版では右手と左手で異なる拍子（クロスリズム）が用いられていましたが、改訂版では右手の拍子も変更されています。途中、マズルカのリズム（歌曲『願い』からの引用）を挟み、再び冒頭部分が再現。技巧的な音階を基調としたコーダを経て、明るい嬰ハ長調で閉じられます。

ミハイル・グリンカ: 夜想曲『別れ』
フランツ・リスト: 『愛の夢、3つの夜想曲』（特に第3番は歌曲編曲）、『ジュネーヴの鐘: 夜想曲』（『巡礼の年第1年』より）
ガブリエル・フォーレ: 13曲の夜想曲を残しました。
エリック・サティ: 5つの夜想曲 (1919年)
アレクサンドル・スクリャービン: 5曲の夜想曲。『左手のための前奏曲と夜想曲』Op.9は、作曲家が右手を痛めた時期に書かれました。
フランシス・プーランク: 9曲の夜想曲。
グスターヴ・ホルスト
バルトーク・ベーラ: 『ミクロコスモス』第4巻に収められた第97番の夜想曲。

管弦楽曲

フレデリック・ディーリアス: 夜想曲『パリ:大都会の歌』
クロード・ドビュッシー: 『夜想曲』（3楽章構成の管弦楽曲）

室内楽曲

フランツ・シューベルト: ピアノ三重奏曲変ホ長調 D 897は、『ノットゥルノ』として知られています。

楽曲の一部としての夜想曲

他の大規模な楽曲の一楽章に夜想曲として、あるいはその雰囲気を纏った楽章が含まれる例もあります。

アレクサンドル・ボロディン: 弦楽四重奏曲第2番の第3楽章。
ドミートリイ・ショスタコーヴィチ: ヴァイオリン協奏曲第1番の第1楽章。
* レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ: ロンドン交響曲（交響曲第2番）の第3楽章。

夜想曲は、夜という時間のもつ静寂、神秘、あるいは感傷といった様々な感情を音楽で表現しようとするジャンルであり、作曲家たちの個性に応じて多様な姿を見せています。

参考文献として、ヴラディミール・ジャンケレヴィチ著、千葉文夫他訳『夜の音楽』（シンフォニア、1986年）などが挙げられます。

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