ナッシング・ライク・ザ・サン

スティング『ナッシング・ライク・ザ・サン』：喪失と希望が織りなす音楽

『ナッシング・ライク・ザ・サン』は、1987年にリリースされたスティングのアルバム。タイトルはシェイクスピアの言葉から引用され、彼の音楽世界を象徴するフレーズとなっている。このアルバムは、スティングにとって重要な2つの出来事、すなわち母親の死と南米での経験が深く影響を与えている。

1986年に癌で母親を亡くしたことは、アルバム全体に物悲しい雰囲気をもたらした。また、「The Conspiracy Of Hope」ツアーで訪れた南米で、内戦や政治的弾圧の犠牲者たちの現実を目の当たりにしたことも、大きな影響を与えた。これらの経験は、「フラジャイル」や「孤独なダンス」といった楽曲に結実し、後者ではチリのピノチェト大統領を名指しで批判している。

アルバムには、生命、愛、死といった普遍的なテーマを扱った楽曲も収録されている。「ザ・ラザラス・ハート」や「ビー・スティル・マイ・ビーティング・ハート」は、そうしたテーマを深く掘り下げた楽曲として評価されている。

音楽的には、前作から続くジャズの影響がより顕著になっている。「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」や「シスター・ムーン」は、洗練されたジャズの要素を取り入れた楽曲として知られている。一方で、「ウィル・ビー・トゥゲザー」は、ハードなダンスナンバーであり、全米ビルボードチャートで7位を記録した。スティング自身は、この曲を元々ビールのコマーシャル用に作曲したため、あまり気に入っていないと語っている。

このアルバムは、総販売枚数200万枚を超えるスティングのベストセラーアルバムの一つとなった。「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」は、1990年にリミックスされ、全英シングルチャートで15位にランクイン。その後も、様々なアーティストによってカバーや替え歌が発表されている。

『ナッシング・ライク・ザ・サン』は、ニール・ドーフスマンによってフル・デジタル・レコーディングされたアルバムとしても知られている。当時としては珍しかったこの技術は、音質の向上に貢献し、アルバムの完成度を高めた。ちなみに、世界初のフル・デジタル・レコーディングアルバムは、同じくドーフスマンがプロデュースしたダイアー・ストレイツの『ブラザーズ・イン・アームス』である。

2022年には、本作の発売35周年を記念したエクスパンデッド・エディションがデジタル限定でリリースされ、再び注目を集めている。

マイルス・デイヴィスは、このアルバムの出来栄えについて、ギル・エヴァンスが参加しているからだと発言している。スティングは実際にアルバムリリース後、ギル・エヴァンスのバンドとライブを行っている。

『ナッシング・ライク・ザ・サン』は、スティングの音楽キャリアにおける重要な作品であると同時に、1980年代の音楽シーンを代表するアルバムの一つとして、今もなお多くの人々に愛され続けている。

収録曲
1. ザ・ラザラス・ハート - "The Lazarus Heart"
2. ビー・スティル・マイ・ビーティング・ハート - "Be Still My Beating Heart"
3. イングリッシュマン・イン・ニューヨーク - "Englishman in New York"
4. 歴史はくり返す - "History Will Teach Us Nothing"
5. 孤独なダンス - "They Dance Alone（Cueca Solo）"
6. フラジャイル - "Fragile"
7. ウィル・ビー・トゥゲザー - "We'll Be Together"
8. ストレート・トゥ・マイ・ハート - "Straight to My Heart"
9. ロック・ステディー - "Rock Steady"
10. シスター・ムーン - "Sister Moon"
11. リトル・ウイング - "Little Wing"（ジミ・ヘンドリックス）
12. シークレット・マリッジ - "The Secret Marriage"

参加ミュージシャン
ギル・エヴァンス – オーケストラ指揮
レネ・ゲイヤー – バックグラウンドボーカル
その他、多数のミュージシャンが参加

関連項目
チリ・クーデター#チリクーデターとピノチェト政権を題材にした作品

外部リンク
* ...Nothing Like The Sun - Discogs (発売一覧)

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