ナヘラの戦い

ナヘラの戦い

ナヘラの戦いは、1367年4月3日にカスティーリャ王国（現在のスペイン）のラ・リオハ地方ナヘラで起きた、カスティーリャ王ペドロ1世とトラスタマラ伯エンリケ（後のエンリケ2世）との間で行われた戦いです。この戦いは、第一次カスティーリャ継承戦争における重要な局面であり、イングランドとフランスという当時の二大勢力がそれぞれの陣営を支援したため、百年戦争の一環としても位置づけられています。

背景：カスティーリャ継承戦争と百年戦争

1350年にペドロ1世がカスティーリャ王に即位すると、庶兄であるエンリケとの間で王位を巡る争いが頻発しました。貴族層への弾圧などペドロ1世の強権的な政治に対する不満が高まる中、エンリケはフランスの支援を受けて反乱を画策。1366年には、エンリケはペドロ1世を廃位し、自ら王位を宣言しました。追われたペドロ1世は、イングランドのエドワード黒太子に支援を要請し、カスティーリャ継承戦争が勃発します。

一方、イングランドとフランスの間では1337年から百年戦争が続いていました。当初はイングランドが優勢でしたが、フランス王シャルル5世が外交戦略を転換し、カスティーリャ王国に接近。また、フランス国内で問題となっていたフリーカンパニー（傭兵団）を、教皇の協力を得てカスティーリャへ送り込み、エンリケ陣営を支援しました。

開戦までの道のり

ペドロ1世からの支援要請を受けたイングランドは、カスティーリャの富を餌に傭兵を募集。エドワード黒太子の下には、ガスコーニュやイングランドの貴族、そしてヨーロッパ各地から集まった傭兵隊長たちが集結しました。総勢8,000〜10,000の兵力で、黒太子はカスティーリャへの侵攻を開始します。

1366年8月、ペドロ1世と黒太子はナバラ王カルロス2世と会談し、カスティーリャ侵攻の条件を取り決めました。ペドロ1世は、傭兵への報酬や領土割譲などを約束し、イングランド軍のナバラ通過を許可させます。

一方のエンリケは、挙兵のために集めた傭兵への報酬が高額すぎたため、やむなく兵を解散。イングランド軍がカスティーリャに侵攻すると、急遽兵を集め、ベルトラン・デュ・ゲクラン率いるフランス軍を呼び戻しました。しかし、エンリケ軍の兵力は、フランス人傭兵1,000人を含む4,500人に過ぎませんでした。

戦闘の経過

1367年3月、イングランド軍はカスティーリャ軍に対し、ゲリラ戦術を駆使して戦果を挙げていました。しかし、エンリケの戦略はカスティーリャ貴族の目に弱腰と映り、ペドロ1世陣営に加わる勢力が増加。エンリケは決戦を決意し、ナヘラの東岸に布陣しました。

両軍はナヘラで激突。イングランド軍はランカスター公とチャンドスが率いる歩兵と長弓兵を先鋒に、中央には黒太子とペドロ1世が率いる歩兵と長弓兵を配置しました。対するカスティーリャ軍は、ゲクラン率いるフランス装甲兵士と石弓兵を最前線に、エンリケ自らが率いるカスティーリャ重騎兵を中央に配置しました。

ゲクランは、予期せぬ方向から現れたイングランド軍に対応するため陣形を変更しましたが、混乱が生じます。恐慌状態に陥ったカスティーリャ騎兵や歩兵の一部が戦線を離脱し始めたため、ゲクランは防御陣形を捨ててイングランド軍に襲いかかりました。

両軍は白兵戦に突入。イングランド軍両翼のガスコーニュ装甲兵はゲクランの部隊を包囲する動きを見せ、カスティーリャ軽騎兵はイングランドとウェールズの長弓兵の猛烈な射撃で粉砕されました。カスティーリャ重騎兵を率いるエンリケはゲクランを助けようと何度も突撃を試みましたが、長弓によって馬が打ち倒され近づくことさえできませんでした。最終的に、カスティーリャ軍は敗北し、エンリケは戦場から離脱。ゲクランは捕虜となりました。

戦後

エンリケを逃した黒太子は不満を漏らしました。エンリケはフランスに逃れ、ペドロ1世に対する戦いを継続。一方、ペドロ1世は黒太子との約束を守らず、傭兵への報酬を支払わなかったため、両者の関係は破綻しました。

ペドロ1世は国際的に孤立していき、1369年のモンティエルの戦いでエンリケに敗れて殺害されました。ナヘラの戦いは、戦術的にはイングランド軍の勝利に終わりましたが、その後の政治的な展開に大きな影響を与え、百年戦争の複雑な様相を色濃く反映する出来事となりました。

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