エドワード黒太子

エドワード黒太子：その生涯と軍事的功績

エドワード黒太子（1330年 6月15日 - 1376年 6月8日）は、中世イングランドを代表する王族であり、卓越した軍人でした。父はイングランド王エドワード3世、母はフィリッパ・オブ・エノー。兄にはクラレンス公ライオネル・オブ・アントワープ、弟にはランカスター公ジョン・オブ・ゴーント、ヨーク公エドマンド・オブ・ラングリー、グロスター公トマス・オブ・ウッドストックがいます。オックスフォードシャーのウッドストック宮殿で生まれたことから、エドワード・オブ・ウッドストックとも呼ばれます。アキテーヌ公としてはエドゥアール4世の名で知られています。

生涯

1337年、エドワードは父からコーンウォール公に叙爵され、イングランド初の公爵となりました。1339年に百年戦争が勃発すると、父王が不在がちになったため、若くして国政の実質的な代理を務めました。1343年にはウェールズ公（プリンス・オブ・ウェールズ）に任じられ、以後、王位継承者がこの称号を継承することが慣例となりました。

1346年、16歳のエドワードはクレシーの戦いで一部隊を率いて初陣を飾り、フランス軍を破るという鮮烈なデビューを飾りました。その後も、カレー包囲戦やウィンチェルシーの海戦などで勝利を重ね、その軍事的才能を遺憾なく発揮しました。1348年には、父王が創設したガーター騎士団の創立メンバーにも選ばれています。

1355年、ボルドーに派遣されたエドワードは、アキテーヌ地方の領土拡大に尽力し、フランス南部の多くを支配下に置きました。1356年のポワティエの戦いでは、寡兵ながらフランス軍を打ち破り、フランス王ジャン2世を捕虜にするという大戦果を挙げ、イングランドの勝利を決定的なものとしました。この戦勝は1360年のブレティニー条約締結につながり、イングランドは有利な立場を確立しました。

1362年、アキテーヌ公に任じられたエドワードは、フランス南部の広大な地域を統治し、ボルドーに豪華な宮廷を築きました。しかし、その浪費ぶりは重税を招き、またイングランド貴族を優遇する姿勢は、アキテーヌの住民の不満を高めていきました。

1367年、カスティーリャ王国の内戦に介入し、ペドロ1世を支援してナヘラの戦いで勝利しましたが、この遠征で赤痢に罹患し、健康を害しました。また、ペドロ1世が約束した遠征費用を支払わなかったため、莫大な負債を抱えることとなりました。1369年にはペドロ1世が敗死し、カスティーリャはフランスの影響下に入り、アキテーヌは脅威に晒されることになりました。

財政難を打開するため、1368年にアキテーヌに炉税を課したことが、さらなる住民の反発を招きました。アキテーヌの貴族たちは、フランス王シャルル5世に訴え、エドワードはパリ高等法院に出頭を命じられます。エドワードはこれを拒否し、1369年に百年戦争が再開されました。

病のため戦場に出ることができなくなったエドワードは、1370年のリモージュ包囲戦で勝利したものの、市民を虐殺するという残虐な行為を行いました。1371年にイングランドに帰国した後、弟のランカスター公ジョン・オブ・ゴーントから国政の実権を取り戻しましたが、1376年に病死しました。翌年には父エドワード3世も死去し、王位はエドワード黒太子の息子リチャード2世が継承しました。

家族

1361年、エドワードは父の従妹であるジョーン・オブ・ケントと結婚しました。これは当時としては珍しい恋愛結婚であり、周囲の反対を押し切っての結婚でした。ジョーンとの間には、エドワードとリチャードの二人の息子をもうけましたが、エドワードは早世し、リチャードが後のリチャード2世となります。

ジョーンは、その美貌から「キリスト教世界で一番の美女」と称えられ、ソールズベリー伯やケント伯と結婚歴がありました。また、ガーター勲章の創設伝説に登場する貴婦人であるという説もあります。

黒太子の呼称

エドワード・オブ・ウッドストックは、一般的に「黒太子」という名で知られていますが、この呼称は彼の生前には使われていませんでした。この呼称の由来については諸説ありますが、黒い鎧を着用していたため、あるいはフランス側が彼の残虐行為を指して「黒」と呼んだなど諸説あります。しかし、実際のところ、黒太子という呼称が用いられるようになったのは、後世になってからのことであるという説が有力です。

脚注

参考文献

森護『英国王室史話』大修館書店、1986年。
川北稔編『新版世界各国史11 イギリス史』山川出版社、1998年。
松村赳・富田虎男編『英米史辞典』研究社、2000年。
佐藤賢一『英仏百年戦争』集英社新書、2003年。
城戸毅『百年戦争―中世末期の英仏関係―』刀水書房、2010年。
君塚直隆『物語イギリスの歴史（上）古代ブリテン島からエリザベス1世まで』中央公論新社（中公新書）、2015年。