ナポリ湾の海戦 (ブリューゲルの絵画)

ピーテル・ブリューゲルの傑作『ナポリ湾の海戦』：イタリア旅行と初期フランドル派絵画の融合

ピーテル・ブリューゲル作の『ナポリ湾の海戦』（伊: Battaglia nel porto di Napoli、英: Naval Battle in the Gulf of Naples）は、初期フランドル派絵画の代表作の一つとして知られています。1558年から1562年頃、板上に油彩で描かれたこの作品には、署名や年記はありませんが、ブリューゲルの真筆と広く認められています。

ブリューゲルは1551年から1553年にかけて、アブラハム・オルテリウスと共にイタリア半島を旅行し、ローマ、ナポリ、メッシーナなどを訪れました。この旅行が本作の制作に大きな影響を与えたことは明らかです。実際、ブリューゲルはイタリア旅行中に数多くのスケッチを残しており、その中には『メッシーナ海峡での海戦』を描いたものも含まれています。このスケッチは、版画家であるフランス・ハイスによって版画として複製されています。

『ナポリ湾の海戦』は、ブリューゲルがイタリア旅行と直接関連する数少ない油彩画の一つであり、ナポリ湾の風景を写実的に表現しています。防波堤などの細部は画家独自の解釈が加えられていますが、カステル・デッローヴォの城塞やサン・ヴィンチェント聖堂の塔（現存しない）、カステル・ヌオーヴォの城塞など、ナポリ湾のランドマークとなる建造物が正確に描かれています。

しかし、この作品は単なる風景画ではありません。世界発見の時代に生きたブリューゲルは、画面に描かれた船舶に特別な視線を注いでいたと考えられます。国際都市アントウェルペンに住んでいたブリューゲルは、スヘルデ川に出入りする多くの外国船を目撃し、船の構造や帆の形を詳細に観察する機会を得ていました。以前から船舶を描いた版画「船のシリーズ」の下絵を制作していたことからも、彼が船舶に深い関心を持っていたことが伺えます。

画面に描かれた海戦は、史実に基づいたものなのか、それともブリューゲルの空想によるものなのかは明確ではありません。しかし、メッシーナ海峡におけるオスマン・トルコ艦隊の攻撃や、ナポリ港を襲撃するトルコ艦隊と神聖ローマ皇帝軍との戦闘など、いくつかの説が提唱されています。研究者F・スメーケンは、この作品に描かれた海戦が後者の戦闘を表している可能性を示唆しています。また、ブリューゲルが実際には長方形であるナポリ港を楕円形に描いた理由についても、様々な憶測が飛び交っています。

本作の制作年については、現在も議論が続いています。しかし、火山とその位置が、ブリューゲルの新プラトン主義的汎神論を反映しているという点については、研究者たちの間で一定の合意が見られます。

『ナポリ湾の海戦』は、ブリューゲルのイタリア旅行の経験、そして彼の優れた観察眼と表現力が融合した、初期フランドル派絵画における重要な作品です。現在、ローマのドーリア・パンフィーリ美術館に所蔵されており、世界中の美術愛好家から高い評価を受けています。

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