ナポレオン・アンリ・ルベル

ナポレオン・アンリ・ルベル

フランスの作曲家、そして高名な音楽教育者であったナポレオン・アンリ・ルベルは、1807年10月21日にアルザス地方のミュルーズで生を受け、1880年11月24日にパリでその生涯を閉じました。彼は当時の著名な理論家であるアントニーン・レイハ、および重鎮ジャン＝フランソワ・ル・スュールに師事し、作曲の基礎を固めました。

初期のルベルは、主に室内楽曲や、当時のフランスの優れた詩人による新作詩に付す歌曲の創作に励みました。教育者としての道を歩み始めたのは1851年、パリ音楽院の和声科教授に就任してからです。さらに1862年には、ジャック・アレヴィの後任として作曲科教授となり、多くの音楽家を育成しました。1871年からは音楽院分校の査察官も務めるなど、音楽教育行政においても重要な役割を担いました。

作曲家としての功績が認められ、ルベルは1853年に死去したジョルジュ・オンスローの後を引き継ぎ、フランス学士院会員となりました。歴史的な出来事として、1849年10月30日に行われたフレデリック・ショパンの葬儀では、ルベルが管弦楽編曲を手掛けたショパンの『葬送行進曲』が、棺が埋葬される傍らで演奏されています。

公的な栄誉も受け、ルベルは1855年にレジオンドヌール勲章のシュヴァリエ章、1870年にはオフィシエ章を授与されました。彼の死後、学士院の席はカミーユ・サン＝サーンスに譲られました。著名な門下生には、アドルフ・ダンハウザーやジュール・マスネらがいます。

ルベルの創作活動は多岐にわたります。フランソワ・ブノワとの共作バレエ『恋する悪魔』（1840年）、数多くのコミック・オペラ（『Le nuit de Noël』1848年など）、4曲の交響曲、そして多数の室内楽曲を手がけました。特に室内楽曲では、作品番号1である弦楽五重奏曲がチェロ2本という珍しい編成をとっています。その他、弦楽四重奏曲1曲、1866年のピアノ四重奏曲1曲、ピアノ三重奏曲7曲を残しています。

しかし、ルベルの最も後世への影響は、作曲よりも音楽理論家としての功績にあります。1862年に出版された彼の著書『Traité d'harmonie（和声法）』は、同時代のバザンの教本をも上回る普及を見せ、版を重ねました。この教本は、テオドール・デュボワやポール・モーリスといった音楽家が「ルベルへの補遺」を著すほど、フランスにおける和声教育の基礎として長年使用されました。日本でも、作曲家の池内友次郎がこの教本で学んだといわれています。

ナポレオン・アンリ・ルベルは、作曲家としての幅広い活動に加え、卓越した教育者・理論家としてフランス音楽界に大きな足跡を残しました。特にその和声法教本は、多くの後進を育て、フランス音楽教育の重要な柱の一つであり続けました。

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