テオドール・デュボワ
フランソワ＝クレマン・テオドール・デュボワ（François-Clément Théodore Dubois, 1837年8月24日 - 1924年6月11日）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの作曲家、オルガニスト、そして教育者です。
マルヌ県ロスネーで生まれたデュボワは、幼少期から音楽の才能を示し、ランス大聖堂の教会楽長ルイ・ファナールに師事しました。その後、パリ音楽院に進学し、アンブロワーズ・トマに作曲を師事。1861年にはローマ大賞を受賞し、その才能を広く認められました。
普仏戦争では州兵として従軍しましたが、この時期にカミーユ・サン＝サーンスと親交を深め、生涯にわたる友情を育みました。1868年にはマドレーヌ寺院の楽長に就任し、1871年にはセザール・フランクの後任としてサント＝クロチルド教会の楽長となりました。1872年にはピアニストのジャンヌ・デュビナージュと結婚し、二人の息子をもうけました（長男は早逝）。次男のシャルルは後に考古学者として活躍しました。
1877年にはサン＝サーンスの後任としてマドレーヌ寺院のオルガニストに復帰し、1871年からパリ音楽院で教鞭を執り、ポール・デュカスやフロラン・シュミットといった優れた音楽家を育てました。
1896年、恩師アンブロワーズ・トマの死後、パリ音楽院院長に就任しましたが、1905年のローマ大賞の審査でモーリス・ラヴェルが参加資格を失った問題で論争が起こり、音楽学者ロマン・ロランが公開書簡を投じたことで事態はさらに激化。この責任を取る形で辞任しました。辞任の背景には、彼自身の辞職願望があったとも言われています。後任の院長には、ラヴェルの恩師ガブリエル・フォーレが就任しました。
デュボワはオペラ作曲家としての成功を強く望み、初期には舞台音楽《 La guzla de l'émir》や4幕オペラ《Aben-Hamet》を作曲しました。しかし、これらの作品は期待されたほどの評価を得ることはできませんでした。その後もオペラ《クサヴィエール Xavière》を作曲しましたが、これも決定的な成功には至りませんでした。他にも、バレエ音楽やオラトリオ、交響曲など幅広いジャンルの作品を手がけましたが、1922年に最愛の妻を亡くしたことで作曲への意欲を失い、その2年後に亡くなりました。
現在、彼の作品で最も知られているのは、オラトリオ《キリストの最後の7つの言葉 Les sept paroles du Christ》（1867年）とオルガン曲《トッカータ》（1889年）でしょう。これらの作品も時折演奏される程度で、その他の作品は今日ではほとんど忘れ去られています。
作曲家としての業績よりも、教育者、そして音楽理論家としての側面が、彼の最大の功績と言えるでしょう。『対位法とフーガ Traité de contrepoint et de fugue』や『和声法、理論と実践 Traité d'harmonie théorique et pratique』といった著書は、今日でも音楽教育の場で広く活用されています。
特に和声法に関しては、アンリ・ルベルの教本を補完する形で独自の理論を体系化しました。彼の和声法は、古典的な和声に限定されており、ストラヴィンスキー以降の現代和声は扱っていませんが、その厳密な理論構成は、現在でも多くの音楽学習者にとって重要な規範となっています。特に日本においては、長らく彼の和声法が学習の基礎とされ、現在でもその影響は色濃く残っています。これらの著書はかつては非常に高価でしたが、現在ではパブリックドメインとなり、インターネット上で無料ダウンロードが可能です。
マルセル・ビッチュが提唱した「根音省略形」を、デュボワは「根音除去形」として説明しています。現在では、彼の『対位法とフーガ』は出版社で品切れ状態となっており、海賊版を入手するしか手段がないという状況です。この書は、ルイジ・ケルビーニの教程から66年後に発表されたもので、ケルビーニと比較して禁則の数が増加しています。日本の音楽大学は、デュボワ以降の理論家のルールを典拠としており、それ以前の理論家のルールは参照されていません。
歌劇:
La prova di un'opera seria (未出版)
La guzla de l'émir
Le pain bis
L'enlèvement de Proserpine
Aben-Hamet
Xavière
Miguela
La fiancée d'Abydos (未上演)
Le florentin (未上演)
バレエ:
La Korrigane
La Farandole
オラトリオ・カンタータ:
Les Sept Paroles du Christ
Le Paradis Perdu
その他多数のカンタータ
ミサ曲・宗教曲
交響曲:
Symphonie française (1908)
協奏曲・協奏的作品:
ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ協奏曲
ピアノ協奏曲第2番
ヴァイオリン協奏曲
Fantaisie triomphale for organ & orchestra
交響詩:
Notre-Dame de la Mer
Adomis
その他管弦楽曲:
Marche héroïque de Jeanne d'Arc
Hymne nuptial
Méditation, Prières for strings, oboe, harp, & organ
Fantasietta (1917)
室内楽曲:
ピアノ四重奏曲(1907)
ピアノ曲:
Chœur et Danse des Lutins, six poèmes sylvestres, etc.
オルガン曲:
Douze Pièces pour orgue ou piano-pédalier (1889) - 《トッカータ》を含む
Douze Pièces Nouvelles pour orgue ou piano-pédalier (1893)
Deux Petites Pièces pour orgue ou harmonium (1910)
Notes et études d'harmonie pour servir de supplément au traité de H. Reber (1889)
Traité de contrepoint et de fugue (1901)
Traité d'harmonie théorique et pratique (1921)
Réalisations des basses et chants du Traité d'harmonie par Théodore Dubois (1921)
Sadie, Stanley (Ed.) (1994) [1992]. The New Grove Dictionary of Opera. vol. 1, A–D, chpt: "Dubois, (François-Clément) Théodore" by Richard Langham Smith.
Imbert, I. (1892). Nouveaux profils de musiciens.
Tiersot, J. (1918). Un demi-siècle de musique française.
Widor, M. (1924). Notice sur la vie et les travaux de Théodore Dubois.
Landormy, P. (1943, 1948). La musique française de Franck à Debussy.
Théodore Duboisの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
Theodore Dubois Chamber Music sound-bites from several works and short biography
* Fiat Lux - Théodore Dubois - YouTube
このように、テオドール・デュボワは、作曲家としては必ずしも成功したとは言えませんが、教育者そして音楽理論家として、後世に大きな影響を与えた人物です。彼の著作は、音楽を学ぶ上で欠かすことのできない重要な資料となっています。
生涯
マルヌ県ロスネーで生まれたデュボワは、幼少期から音楽の才能を示し、ランス大聖堂の教会楽長ルイ・ファナールに師事しました。その後、パリ音楽院に進学し、アンブロワーズ・トマに作曲を師事。1861年にはローマ大賞を受賞し、その才能を広く認められました。
普仏戦争では州兵として従軍しましたが、この時期にカミーユ・サン＝サーンスと親交を深め、生涯にわたる友情を育みました。1868年にはマドレーヌ寺院の楽長に就任し、1871年にはセザール・フランクの後任としてサント＝クロチルド教会の楽長となりました。1872年にはピアニストのジャンヌ・デュビナージュと結婚し、二人の息子をもうけました（長男は早逝）。次男のシャルルは後に考古学者として活躍しました。
1877年にはサン＝サーンスの後任としてマドレーヌ寺院のオルガニストに復帰し、1871年からパリ音楽院で教鞭を執り、ポール・デュカスやフロラン・シュミットといった優れた音楽家を育てました。
1896年、恩師アンブロワーズ・トマの死後、パリ音楽院院長に就任しましたが、1905年のローマ大賞の審査でモーリス・ラヴェルが参加資格を失った問題で論争が起こり、音楽学者ロマン・ロランが公開書簡を投じたことで事態はさらに激化。この責任を取る形で辞任しました。辞任の背景には、彼自身の辞職願望があったとも言われています。後任の院長には、ラヴェルの恩師ガブリエル・フォーレが就任しました。
デュボワはオペラ作曲家としての成功を強く望み、初期には舞台音楽《 La guzla de l'émir》や4幕オペラ《Aben-Hamet》を作曲しました。しかし、これらの作品は期待されたほどの評価を得ることはできませんでした。その後もオペラ《クサヴィエール Xavière》を作曲しましたが、これも決定的な成功には至りませんでした。他にも、バレエ音楽やオラトリオ、交響曲など幅広いジャンルの作品を手がけましたが、1922年に最愛の妻を亡くしたことで作曲への意欲を失い、その2年後に亡くなりました。
現在、彼の作品で最も知られているのは、オラトリオ《キリストの最後の7つの言葉 Les sept paroles du Christ》（1867年）とオルガン曲《トッカータ》（1889年）でしょう。これらの作品も時折演奏される程度で、その他の作品は今日ではほとんど忘れ去られています。
教育者としてのデュボワ
作曲家としての業績よりも、教育者、そして音楽理論家としての側面が、彼の最大の功績と言えるでしょう。『対位法とフーガ Traité de contrepoint et de fugue』や『和声法、理論と実践 Traité d'harmonie théorique et pratique』といった著書は、今日でも音楽教育の場で広く活用されています。
特に和声法に関しては、アンリ・ルベルの教本を補完する形で独自の理論を体系化しました。彼の和声法は、古典的な和声に限定されており、ストラヴィンスキー以降の現代和声は扱っていませんが、その厳密な理論構成は、現在でも多くの音楽学習者にとって重要な規範となっています。特に日本においては、長らく彼の和声法が学習の基礎とされ、現在でもその影響は色濃く残っています。これらの著書はかつては非常に高価でしたが、現在ではパブリックドメインとなり、インターネット上で無料ダウンロードが可能です。
マルセル・ビッチュが提唱した「根音省略形」を、デュボワは「根音除去形」として説明しています。現在では、彼の『対位法とフーガ』は出版社で品切れ状態となっており、海賊版を入手するしか手段がないという状況です。この書は、ルイジ・ケルビーニの教程から66年後に発表されたもので、ケルビーニと比較して禁則の数が増加しています。日本の音楽大学は、デュボワ以降の理論家のルールを典拠としており、それ以前の理論家のルールは参照されていません。
主要作品
歌劇:
La prova di un'opera seria (未出版)
La guzla de l'émir
Le pain bis
L'enlèvement de Proserpine
Aben-Hamet
Xavière
Miguela
La fiancée d'Abydos (未上演)
Le florentin (未上演)
バレエ:
La Korrigane
La Farandole
オラトリオ・カンタータ:
Les Sept Paroles du Christ
Le Paradis Perdu
その他多数のカンタータ
ミサ曲・宗教曲
交響曲:
Symphonie française (1908)
協奏曲・協奏的作品:
ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ協奏曲
ピアノ協奏曲第2番
ヴァイオリン協奏曲
Fantaisie triomphale for organ & orchestra
交響詩:
Notre-Dame de la Mer
Adomis
その他管弦楽曲:
Marche héroïque de Jeanne d'Arc
Hymne nuptial
Méditation, Prières for strings, oboe, harp, & organ
Fantasietta (1917)
室内楽曲:
ピアノ四重奏曲(1907)
ピアノ曲:
Chœur et Danse des Lutins, six poèmes sylvestres, etc.
オルガン曲:
Douze Pièces pour orgue ou piano-pédalier (1889) - 《トッカータ》を含む
Douze Pièces Nouvelles pour orgue ou piano-pédalier (1893)
Deux Petites Pièces pour orgue ou harmonium (1910)
著作
Notes et études d'harmonie pour servir de supplément au traité de H. Reber (1889)
Traité de contrepoint et de fugue (1901)
Traité d'harmonie théorique et pratique (1921)
Réalisations des basses et chants du Traité d'harmonie par Théodore Dubois (1921)
参考文献
Sadie, Stanley (Ed.) (1994) [1992]. The New Grove Dictionary of Opera. vol. 1, A–D, chpt: "Dubois, (François-Clément) Théodore" by Richard Langham Smith.
Imbert, I. (1892). Nouveaux profils de musiciens.
Tiersot, J. (1918). Un demi-siècle de musique française.
Widor, M. (1924). Notice sur la vie et les travaux de Théodore Dubois.
Landormy, P. (1943, 1948). La musique française de Franck à Debussy.
外部リンク
Théodore Duboisの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
Theodore Dubois Chamber Music sound-bites from several works and short biography
* Fiat Lux - Théodore Dubois - YouTube
このように、テオドール・デュボワは、作曲家としては必ずしも成功したとは言えませんが、教育者そして音楽理論家として、後世に大きな影響を与えた人物です。彼の著作は、音楽を学ぶ上で欠かすことのできない重要な資料となっています。
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