ナラオイア

ナラオイア（Naraoia）

ナラオイアは、古生代カンブリア紀後期（約5億2000万年前）からシルル紀後期（約4億1900万年前）にかけて生息していた、ナラオイア科に属する絶滅した節足動物の一属です。体長は2センチメートルから最大で4.5センチメートル程度でした。この生物は、その独特の形態と、特に消化管の特徴によって知られています。

形態

ナラオイアの体は上下に平たく、半円形の背甲が前後二枚存在し、それぞれ頭部と尾部を覆っていました。このうち尾部を覆う背甲（尾楯）の方が、頭部を覆う背甲（頭楯）よりも長いのが特徴です。興味深いことに、これらの背甲は石灰質ではなく、柔軟なクチクラ質であったと考えられています。また、頭部と尾部の背甲の間には関節があり、体を折り曲げることが可能でした。

頭部からは、横向きに伸びる多節構造の触角が出ていました。体の内部構造では、比較的太い消化管が目立ちます。その太さは体幅のおよそ14パーセントから18パーセントに達しました。消化管の前端には胃があり、そこから多数の分岐した憩室が頭部の広い範囲に張り巡らされています。さらにその後方には、消化管に沿って4対の嚢状の構造が見られます。

付属肢は、他の三葉虫と同様に二枝型、すなわち内肢（脚）と外肢（おそらく鰓または遊泳肢）に分かれていました。少なくとも体前方の付属肢の外肢には、大きな櫂（かい）のような先端部分と、短く平たい棘のような側枝がついていました。内肢については、ナラオイア・コンパクタという種でのみ詳細が知られており、6つの節で構成されていました。

胃の前端付近には、一対の小さな眼のような構造が存在したことも確認されています。

生態

ナラオイアは、全ての種がおそらく海底を這って生活する底生動物であったと考えられています。その食性については、主に二つの説があります。

一つは、消化管内から堆積物が発見されたことから、ミミズのように大量の土砂を摂取するデトリタス食者であったという説です。この場合、消化管から広がる複雑な憩室や嚢は、栄養価の低い土砂から効率的に栄養を吸収するために発達したと考えられています。もう一つは、消化管内の土砂は死後に体内に侵入した可能性があり、本来は他の生物を捕食したり、死骸を食べる肉食性あるいは腐肉食性であったという説です。

ナラオイアの形態、特に大きなへら状の頭部を覆う背甲、外肢に生えていたとされる層状の剛毛、横向きに伸びる触角、そして頭部と尾部の背甲の間にある関節などは、海底の砂や泥を掘る能力があったことを示唆しています。

分類と発見

「ナラオイア」という属名は、最初に重要な化石が発見されたカナダのブリティッシュコロンビア州にあるヨーホー国立公園内のナラオ湖群（Narao Lakes）にちなんで名付けられました。

本属の化石は、同じくカナダの有名なカンブリア紀の化石産地、バージェス頁岩で最初に発見されました。当初、ナラオイアは尾部を覆う背甲が体の大部分を占めており、その詳細な構造が不明であったため、甲殻類と誤って分類されていました。

しかし、バージェス頁岩からはナラオイアの化石が豊富に見つかったため、著名な古生物学者ハリー・ウィッティントン博士によって、いくつかの化石標本が詳細に調べられました。その結果、付属肢である脚部や鰓の構造が三葉虫のそれと酷似していることが明らかとなり、現在ではナラオイアは三葉虫類として広く認められています。

かつてナラオイア・ロンギカウダタ（Naraoia longicaudata）として知られていた種は、消化器の憩室の形態が異なることから、1997年に独立したミスチョウイア属に移され、ミスチョウイア・ロンギカウダタ（Misszhouia longicaudata）として再分類されています。

ナラオイアの化石は、カナダだけでなく、アメリカ合衆国、中国、オーストラリアからも発見されており、その生息年代はカンブリア紀後期のアトダバニアン期からシルル紀後期のプリドリ世にかけてとされています。

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