ナワ語群

ナワ語群（Nahuan）は、北米から中央アメリカにかけて分布するユト・アステカ語族の一派を形成する言語グループです。これらの言語は主にメキシコ国内、そして一部は中央アメリカの特定の地域で話されています。

ユト・アステカ語族の内部における詳細な分類体系については、研究者によって見解が分かれることもありますが、メキシコ国立先住民言語研究所（INALI）による分類では、ナワ語群は以下のような位置づけがなされています。

ユト・ナワ語族（ユト・アステカ語族と同義とされる）
└ 南ユト・ナワ語派
　└ コラチョル＝ナワトル語群
　　├ コラ＝ウィチョル語群（コラ語、ウイチョル語を含む）
　　└ ナワトル語群（ナワ語群）
　　　├ ポチュテコ語
　　　└ 核ナワ語群（ナワトル語、ナワト語を含む）

この語群の中で最も広く知られている言語はナワトル語です。特に、16世紀にスペイン人が初めて到達した頃にアステカ帝国で用いられていた形式は「古典ナワトル語」と呼ばれ、歴史的・文献学的に重要な意味を持っています。現代においては、ナワトル語はメキシコの各地に話者が散らばっており、1980年のメキシコ国勢調査ではその総話者数は138万人に達していました。国際的な言語識別コードであるISO 639-3では、ナワトル語を約30の異なる言語変種に細分してリストアップしていますが、これらの変種間の違いは比較的少なく、多くの場合、広義のナワトル語における方言的な関係にあると見なされています。

ナワトル語の多様な変種をどのように分類するかについては、いくつかの音声学的、形態論的な特徴に基づいて様々な基準が提案されています。例えば、無声歯茎側面破擦音である[t͡ɬ]の音が、そのまま残存しているか、あるいは[t]や[l]といった異なる音に変化しているかといった基準や、語頭に現れる[e]の音が[je]と発音されるか否か、または唇音化した軟口蓋音[kʷ]が[b]に変化しているかといった特徴が用いられます。また、語尾につく接尾辞の形、例えば-wkiや-nkiが-wikや-nikといった形に変化する現象（例：šošowki「暖かい」がšošowikとなる、totōnki「緑」がtotonikとなるなど）も分類の手がかりとなります。

ナワ語群にはナワトル語以外にも言語が含まれます。例えば、エルサルバドル西部にはピピル民族によって話されているナワト語（ピピル語とも呼ばれます）があります。この言語はかつてはより広い地域で話されていましたが、2008年時点での話者数は約200人と非常に少なく、ユネスコ（国際連合教育科学文化機関）からは「極めて深刻な危機」（critically endangered）に瀕している言語の一つとして分類されています。

また、メキシコのオアハカ州でかつて話されていたポチュテコ語という言語もナワ語群に含まれていました。この言語は、ナワトル語とは顕著に異なる特徴を持っていたとされていますが、残念ながら20世紀初頭には既に話者がいなくなり、消滅してしまいました。

このように、ナワ語群は歴史的に重要なナワトル語を中心に、現代においても多様な変種が各地で話されていますが、一方でナワト語のように存続が危ぶまれる言語や、ポチュテコ語のように既に失われてしまった言語も含んでおり、その現状は多岐にわたります。

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