唇音化

唇音化（しんおんか）とは、音声学において、ある音の調音の際に、第一次調音に加えて、上唇と下唇が接近し、唇の丸みを伴う第二次調音が行われる現象を指します。この現象は円唇化（えんしんか）とも呼ばれます。

国際音声記号での表記

国際音声記号（IPA）では、唇音化された子音は、基本となる子音の記号に補助記号 [ʷ] を付加して表します。例えば、[tʷ] や [dʷ] のように表記されます。一方、母音については、円唇母音の記号が用意されており、補助記号を用いることで円唇の強弱を表現することができます。

日本語における唇音化

日本語では、かつて「くゎ」「ぐゎ」のように、唇の丸みを伴う合拗音が存在していました。しかし、近世にはこれらの音は消滅し、「か」「が」へと変化しました。現在では、一部の方言にのみその名残が見られます。この現象は、他の言語にも見られる歴史的な変化であり（唇音退化を参照）、音声変化の一例として捉えられます。

英語における唇音化

英語では、/ʃ/, /ʒ/ の音は、しばしば [ʃʷ], [ʒʷ] として発音されます。これは、これらの音がもともと唇の丸みを伴う調音であることに起因します。

唇の調音位置と特徴

唇の調音位置には、唇の突き出し（[protruded]）、押し込み（[compressed]）、引き込み（[retracted]）といった形状の違いによって、調音の特徴が区別されます。特に、突き出し（[protruded]）と押し込み（[compressed]）は、弁別的な素性として互いに対立する関係にあります。

唇音化が生じやすい調音位置

唇音化が最も生じやすい調音位置は、舌背です。また、口蓋垂音は、軟口蓋音よりも円唇化しやすい傾向があります。これは、口の奥の方での調音が、唇の動きに影響を与えやすいことを示唆しています。

唇音化の過剰な進行

唇音化が過度に進行すると、閉鎖を伴う二重調音になることがあります。例えば、アブハズ語では、音素の /dʷ/ が有声歯茎破裂音と両唇音が同時に放出される結果、震え音として発音されることがあります。これは、唇音化が発音の変化に大きな影響を与えることを示す例です。

まとめ

唇音化は、言語における調音の複雑さを示す興味深い現象です。唇の動き一つで発音が大きく変化し、それが歴史的な変化や方言の違いにも影響を与えていることがわかります。言語学の観点からも、唇音化は重要な研究テーマであり、そのメカニズムを理解することは、音声学の知識を深める上で非常に有益です。

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