ニア洞窟

ニア洞窟：古代の痕跡と自然の神秘が息づく場所

ニア洞窟（Gua Niah）は、マレーシアのサラワク州ミリ省に位置する石灰岩の洞窟で、その周辺はニア国立公園として保護されています。2024年にはユネスコの世界遺産に登録され、その歴史的、考古学的、そして自然的な価値が国際的に認められました。この洞窟は、東南アジアにおける最古の人類活動の痕跡が残る場所として、また、独特の生態系を育む場所としても知られています。

地理と概要

ニア洞窟は、南シナ海から約17キロメートル内陸に入った場所に位置し、ミリの町からは南南西に約65キロメートルの距離にあります。洞窟の中心をなすのはニア大洞窟で、グヌン・スビスに位置し、巨大な空間が広がっています。この大洞窟は、南北約1キロメートル、東西約0.5キロメートルに及ぶ広大な石灰岩の中に存在し、高い天井が特徴です。

ニア国立公園は、ニア洞窟を含む31.4平方キロメートルの広さがあります。洞窟はグヌン・スビス石灰岩群とは谷で隔てられており、グヌン・スビス石灰岩群は海抜394メートルに達し、ハート形をしています。周囲は低地ですが、石灰岩の丘が点在し、中には100メートルを超える崖も見られます。ニア洞窟自体は、州内の他の洞窟に比べて広がりは少ないものの、約10ヘクタールの広さを持ち、場所によっては天井までの高さが75メートルに達します。

考古学的な重要性

ニア洞窟の地質は、2,300万年前には珊瑚礁であったものが、浸食と地震による隆起を経て形成されたものです。石灰岩は、2,000万年前から1,600万年前に形成されたスビス形成によるものです。

この洞窟は、先史時代から新石器時代、宋の時代、そして最近に至るまで、人間に利用されてきました。1954年以来、サラワク州立博物館が体系的な考古学的研究を行っており、約4万年前の人間の痕跡が発見されています。これは、東マレーシアで最古のものです。2006年の研究では、洞窟の最古の痕跡が34,000年前から46,000年前であるとされています。また、Painted Caveと呼ばれる小さな洞窟には、1,200年前に描かれた壁画が残っています。

ニア洞窟からは、旧石器時代の石器や薄片、先史時代の斧や釿、陶器、装身具、船、敷物、鉄器時代の鉄器や陶器、ガラスのビーズなど、多岐にわたる遺物が発見されています。特に有名なのは、38,000年前に遡る人骨です。また、Painted Caveには、壁画の他に木製の柩も見つかっています。

発見の歴史

1855年には、アルフレッド・ラッセル・ウォレスがこの洞窟周辺を探検し、チャールズ・ダーウィンに宛てた手紙の中で、ヒト族の化石が見つかる可能性のある遺跡であると記しました。その後、1869年から1870年にかけて英国の考古学者が発掘調査を行いましたが、目立った発見はありませんでした。

1950年代から1960年代にかけて、トム・ハリソンらがこの地で発掘調査を行い、大きな成果をあげました。特に、1958年に2.5メートルの深さから発見された「ディープスカル」は、大きな注目を集めました。これにより、地元大学や海外の研究者が考古学的研究を行うようになり、多くの論文が発表されました。1999年から2003年には、イギリスとマレーシアが共同でニア洞窟プロジェクトを行い、ハリソンの業績の正確性を再検証しました。

世界遺産としての価値

ニア洞窟は、以下の世界遺産登録基準を満たし、世界遺産に登録されました。

(3)：現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
(5)：ある文化（または複数の文化）を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。

その他の特徴

ニア洞窟は、遺跡としての価値だけでなく、アナツバメの燕の巣が採取できる場所としても知られています。洞窟の天井は燕の塒となっており、燕の巣は伝統的に地元の住民によって採取されてきました。採取には熟練した技術が必要で、数十メートルの高さまで棒一本で登り、蝋燭の火を揺らしながら行われます。しかし、燕の巣の採取量は減少しており、1930年代には170万あった燕の巣も、現在では10万まで減少しています。

ニア洞窟は、古代の人類の活動の痕跡と、自然の神秘が共存する貴重な場所です。その歴史的、考古学的、そして生態学的な価値は、世界遺産としての登録によってさらに重要性を増し、今後も保護と研究が続けられることでしょう。

もう一度検索