釿

釿（ちょうな）とは

釿（ちょうな、ちょんな）は、木工に使われる手工具の一種で、漢字では錛や手斧とも表記されます。鍬に似た形状の斧で、横斧に分類されます。鉋が普及する以前は、木材の荒削り用として世界中で使われていました。

概要

釿は、石器時代から存在する古い歴史を持つ工具です。使用時には、材の上に立って足元に釿を振り下ろしながら後ずさりすることで、木材を荒削りします。また、大木を刳り抜いて臼や丸木舟を作る際にも使用されます。特に、臼や丸木舟作りに用いられる釿は「臼彫り」や「モッタ」と呼ばれ、柄が短く片手でも使えるのが特徴です。日本式の釿は、主にエンジュ材を湾曲させた柄に刃を差し込む形状です。一方、西洋式の釿は、鍬やマトックのように直線的な柄に刃が直角にはめ込まれています。西洋では、木材加工だけでなく、老朽家屋の解体にも用いられ、多目的に活用されています。

歴史

考古学や民族学の観点から見ると、刃と柄が平行な斧は「縦斧」、釿のように直角なものは「横斧」と呼ばれます。旧石器時代前期には、石を打ち欠いて作った打製石器の石斧「握り斧」がありましたが、これは柄のないものでした。柄を取り付けることで、縦斧と横斧の区別が生まれます。

ヨーロッパ

シベリアのエニセイ川流域にあるアフォントヴァ山遺跡からは、2万年前の横斧と見られる石斧が発見されています。ヨーロッパ北部では、1万～8千年前の中石器時代に、燧石で作られた横斧が多数発見されました。しかし、8千～7千年前には縦斧が主流になり、大型化しました。これは、気候変動により植生が変化し、硬い広葉樹を伐採する必要が生じたためと考えられます。新石器時代には、角閃岩や玄武岩を磨き上げた磨製石器の斧が使われました。

エジプト

古代エジプト文明では、古王国時代から釿が見られます。当初は石器でしたが、王朝誕生以前には刃の材質が銅に変わりました。金属製の刃は、ヒツ（柄を差し込む穴）に柄を通して固定します。古代エジプトの釿は、ミイラや彫像に供物を捧げる口開けの儀式にも使用され、祭具としての役割も担っていました。

オセアニア

オセアニアでは、白人到達以前は縦斧がほとんど使われず、横斧が主流でした。ニュージーランドのマオリ族は、軟玉製の釿でカヌーや装飾的な建築物を造りました。ニューギニア高地では、縦斧のみを使う部族と横斧のみを使う部族が存在します。石斧は道具であると同時に財産でもあり、結婚の際には結納として贈られることもありました。また、石材が少ない地域では、シャコガイの貝殻を磨いて作った「貝斧」が使われていました。

北アメリカ

アメリカ大陸では、約1万年前のダルトン文化の遺跡から、横斧として使用された石斧が出土しています。北太平洋沿岸に住むインディアンの部族は、ヨーロッパの釿に似た形状の釿を使い、大建築やカヌーを製作しました。

日本

日本では、旧石器時代の遺跡から横斧が出土していますが、縄文時代には縦斧が主流となりました。弥生時代には鉄器が伝来し、斧は徐々に鉄製に変わりました。しかし、鉄は貴重品だったため、鉄の使用量を減らす工夫がされていました。古代日本では、鋸があまり普及していなかったため、斧で伐採した木材を釿で荒削りしていました。室町時代に大鋸が伝来し、木材の加工効率が向上しましたが、釿は引き続き使用されました。明治時代に来日したエドワード・S・モースは、釿を操る日本の大工の様子を記録しています。

現在では、釿が実用されることは少なくなっていますが、古民家の解体で出る古材の釿の削り痕が珍重されています。また、釿跡を模した鉋も存在し、和風の飲食店などで壁材として利用されています。

現代における釿

現在でも、一部の彫刻家や宮大工、木地師、臼造りの職人が釿を使用しています。また、警察官や消防士が屋内突入に使うハリガン・バーや、山火事対策に使用されるプラスキにも、釿の形状が応用されています。

参考文献

エドワード・モース『日本その日その日Ⅰ』平凡社〈東洋文庫〉、1989年。
佐原真『斧の文化史』東京大学出版会〈UP考古学選書〉、1994年。
印東道子『オセアニア 暮らしの考古学』朝日新聞社〈朝日選書〉、2002年。

外部リンク

釿（ちょうな）- 竹中工務店 - ウェイバックマシン（2017年7月28日アーカイブ分）

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