ニカラグア運河

ニカラグア運河：実現しなかった大運河計画

ニカラグア運河は、カリブ海と太平洋を結ぶ全長約259kmの運河建設プロジェクトとして、2014年に着工しましたが、その後中止となりました。パナマ運河の約3.5倍の長さを誇るこの計画は、ニカラグア経済の活性化に大きな期待が寄せられていましたが、様々な要因が重なり、未完成に終わりました。

古くからの構想とアメリカの関与

中米地峡に運河を建設する構想は古く、19世紀初頭にはナポレオン三世もその可能性に言及しています。アメリカ合衆国も20世紀に入り、中米運河計画に積極的に関与しましたが、ニカラグアのモモトンボ火山の噴火リスクを懸念し、最終的にパナマ運河の建設を選択しました。ニカラグア運河計画では、ニカラグア湖とサン・フアン川を利用するルートが想定されていました。

日本への影響

1891年、アメリカ海軍の艦長による講演を通じて、ニカラグア運河計画の情報が日本に伝わりました。当時の日本は、世界的な交通路の変化が国際貿易上の好機をもたらすと期待し、中南米調査においてもこの計画に注目していました。福澤諭吉も時事新報でこの計画の重要性を論じています。

建設開始とHKNDグループ

ニカラグアでは、長年運河建設の夢が持ち続けられてきました。2013年、オルテガ政権は香港系企業であるHKNDグループに運河の計画、建設、運営を委託することを決定しました。HKNDグループは王靖氏が率いる企業で、巨額の資金調達を行い、2014年12月に着工式典を開催しました。

ルートと詳細計画

複数のルートが検討された結果、太平洋側のブリトからニカラグア湖、人工湖を経由してカリブ海のプンタ・ゴルダに至る全長約259kmのルートが採用されました。運河の幅員は230～280m、水深は26.9～29.0mと計画され、大型コンテナ船や超巨大貨物船の通行を可能にする規模でした。

環境への懸念

豊かな生態系を持つニカラグア湖への影響が懸念され、環境保護団体などから反対の声が上がりました。HKNDグループは環境影響調査を実施し、説明会を開催しましたが、希少な水棲生物への影響を心配する声は根強く残りました。

資金難と計画の中止

当初400億ドルとされた総事業費は、その後500億ドルに膨れ上がり、パナマ運河の拡張工事完了なども相まって、採算性への疑問が強まりました。住民による反対運動も継続し、2018年2月には資金不足により建設が中止されたと報道されました。同年4月にはHKNDの香港本社が閉鎖され、事実上計画は放棄されました。2024年5月、ニカラグア議会はHKNDグループに与えられていた運河建設と運営権を廃止する法律を承認し、計画は完全に終止符を打たれました。

政治的背景と中国の影響

このプロジェクトには中国の影響が大きく、HKNDグループの背景や、中国政府との関係性も指摘されてきました。ニカラグア政府は中国による経済効果を期待していましたが、中国共産党や人民解放軍の関与を示唆する見方もあります。また、巨額の融資の裏には、王靖氏による個人的な利益追求があったという見方も存在します。

アメリカの制裁

2019年、アメリカ合衆国は運河計画に関わったニカラグア企業に経済制裁を科しました。これは、オルテガ政権の資金洗浄に関与したとみなされたためです。オルテガ大統領は計画の継続を主張しましたが、具体的な動きはなく、計画は完全に頓挫しました。

ニカラグア運河計画は、経済発展への期待と環境保護、政治的思惑が複雑に絡み合った、未完成のプロジェクトとして歴史に刻まれました。その失敗は、大規模インフラ開発におけるリスク管理や国際協力の重要性を改めて示すものです。

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