ニキータ・パーニン

ニキータ・イワノヴィッチ・パーニン伯爵は、1718年、ダンツィヒ（現グダニスク）で生まれ、バルト海の沿岸都市パルヌで幼少期を過ごしました。その後、軍隊に入隊し、外交官としての道を歩み始めます。エリザヴェータ女帝の寵愛を受けたという噂も囁かれていたといいます。

1747年にはコペンハーゲン、その後まもなくストックホルムへ赴任し、ロシア公使として12年間スウェーデンに滞在しました。この間、スウェーデンの親仏派と対抗する外交活動を行い、立憲君主制の考え方に傾倒していったとされています。ロシア国内では、反仏派のベストゥージェフ＝リューミンらと連携し、政治活動を行いました。1760年には、ピョートル・フョードロヴィチ大公の息子、パーヴェル（後の皇帝パーヴェル1世）の家庭教師に任命されるなど、その影響力は着実に拡大していきます。

1762年、エカチェリーナ2世による宮廷クーデターが発生します。パーニンはエカチェリーナ2世を支持する立場をとりますが、オルロフ家を中心とした勢力の台頭を警戒し、パーヴェル皇太子への権力継承を主張しました。エカチェリーナ2世の即位後も、パーニンは有力な政治家としてその地位を保ち続けました。これは、パーヴェル皇太子からの信頼、クーデターへの支持、そして何よりも彼の優れた外交手腕によるものだったと言えるでしょう。

エカチェリーナ2世の治世下、パーニンは外交政策の中枢を担いました。彼は、フランスとオーストリアへの対抗策として、ロシア、プロイセン、ポーランド、スウェーデン、デンマーク＝ノルウェー、イギリスといった北方諸国による協約「北方協約」構想を提唱しました。しかし、ポーランド分割問題や各国間の利害対立により、この協約は実現に至りませんでした。特に、1772年のスウェーデンにおけるグスタフ3世の即位は、パーニンの計画に大きな痛手となりました。

ポーランド問題においても、パーニンは重要な役割を果たしました。1764年、スタニスワフ2世アウグストがポーランド王に即位した後も、パーニンはポーランドの内政に干渉を続け、領土保全に尽力しました。しかし、ロシアの干渉に反発したバール連盟の結成や露土戦争の勃発など、事態は複雑化の一途を辿ります。これらの出来事により、パーニンは1772年の第一次ポーランド分割を黙認せざるを得ない状況に追い込まれました。

パーヴェル皇太子の結婚問題も、パーニンとエカチェリーナ2世の関係悪化に繋がります。パーヴェルはプロイセンとの同盟強化を目指し、プロイセン王フリードリヒ2世が推す花嫁候補を支持しました。一方、エカチェリーナ2世はオーストリアとの関係改善を模索しており、二人の意見は対立しました。パーヴェル皇太子とパーニンのエカチェリーナ2世に対する陰謀説が囁かれるほど、二人の関係は緊密でした。

その後、グリゴリー・ポチョムキンやイギリス公使ジェームズ・ハリスらの策略も相まって、パーニンはエカチェリーナ2世との関係は完全に決裂し、1781年5月に罷免されました。そして、1783年4月11日、サンクトペテルブルクでその生涯を閉じました。パーニン伯爵の生涯は、18世紀ロシアの政治と外交史において重要な位置を占めており、彼の功績と失敗は、ロシアの歴史に深く刻まれています。彼の外交戦略や政治判断は、今日でも研究され、議論されています。

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