ニクロム

ニ[クロム]とは、ニッケルとクロムを主成分とする合金です。その大きな電気抵抗が特徴で、電熱線として電気ストーブやヒーターなど様々な電気機器に用いられています。

ニクロム線は、電熱線の代名詞として広く知られていますが、近年では鉄、クロム、アルミニウムを主成分とするカンタル(Kanthal)合金が、その優れた特性からニクロムに取って代わる存在となっています。しかし、カンタルはニクロムほど一般には浸透しておらず、カンタル線もニクロム線と呼ばれるケースが多いです。

ニクロムは、米国ドライバーハリス社の登録商標であり、1905年にアルバート・マーシュによって開発されました。ニッケルの含有量によって種類が分類され、ニッケル80%のニクロム80(NCH-1相当)や、ニッケル60%のニクロム60(NCH-2相当)などが存在します。その他にも、ニッケル含有量が40%や20%のニクロム合金も存在します。

ニクロムの大きな利点として、鉄クロム合金と比較して優れた耐酸化性と耐クリープ性が挙げられます。耐酸化性が高いということは、高温下でも酸化しにくく、長期間にわたって安定した性能を発揮することを意味します。耐クリープ性が高いということは、高温下で長期間使用しても変形しにくいことを意味します。これらの特性は、電熱線として使用される上で非常に重要です。

ニクロムという名称は、ニッケルとクロムから構成される合金であることを示しており、「二クロム酸カリウム」などの「二」とは漢字表記が異なる点に注意が必要です。

ニクロムは、私たちの生活に密着した多くの製品に使用されています。トースター、オーブントースター、ホットサンドメーカーなどのキッチン家電はもちろんのこと、暖房器具、グロープラグ、ロードヒーティングなどにも利用されています。また、石英管ヒーターや電子タバコにも使用され、その幅広い用途から現代社会の様々な場面で活躍しています。

興味深いことに、日本の海軍軍人で工学者であった平賀譲氏は、「平賀不譲」と評されるほど頑固な性格で知られていました。激しい議論の際には相手を怒鳴りつけたとされ、その様子から「すぐに赤熱する」という意味で「ニクロム線」という渾名で呼ばれていたそうです。これは、ニクロム線の発熱性と平賀氏の激しい性格を結びつけた、ユニークな逸話と言えるでしょう。

ニクロム合金は、その高い電気抵抗と優れた耐酸化性、耐クリープ性によって、様々な分野で重要な役割を果たしています。今後も、その特性を生かした新たな用途開発が期待されます。

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