ニコチン依存症

ニコチン依存症とは

ニコチン依存症は、主に喫煙などによりタバコを常用することで生じるニコチンへの依存状態であり、薬物依存症の一つに分類されます。国際的な疾病分類基準である世界保健機関（WHO）の国際疾病分類第10版（ICD-10）では、「タバコ使用による精神および行動の障害」として位置づけられています。これは、ニコチン摂取による一時的な急性の身体症状とは区別される、慢性的な依存状態を指します。

依存のメカニズムと現状

タバコに含まれるニコチンは、脳の報酬系と呼ばれる部位を刺激する作用を持つ物質です。これにより、喫煙者は快感やリラックス、集中力向上などの感覚を得ることができ、この報酬効果を再び得るために喫煙を繰り返すようになります。これがニコチンへの強い依存を形成するメカニズムです。

ニコチンの依存性は非常に高く、喫煙者の約7割がニコチン依存症であると考えられています。驚くべきことに、このうち約4割の人は自分が依存症であることに気づいていません。多くのニコチン依存症の人は禁煙を希望しており、実際に試みるものの、自力での禁煙は難しく、失敗を繰り返すケースが少なくありません。禁煙治療を専門とする医療機関を訪れる人の多くは、過去に一度や二度の禁煙失敗経験を持っています。

近年の研究では、タバコへの依存に陥りやすく、その結果として肺がんのリスクが高まる特定の遺伝子の存在も明らかになってきています。ある研究報告によれば、両親がタバコ依存を招く遺伝子を持つ喫煙者は、そうでない喫煙者に比べて肺がんになる可能性が80%も高まる可能性があるとされています。

治療

日本では、ニコチン依存症は疾患として正式に認められています。2006年4月からは、医療機関におけるニコチン依存症の禁煙治療に健康保険が適用されるようになりました。これにより、患者さんの治療費の負担が大幅に軽減され、禁煙治療を専門的に行う「禁煙外来」を設ける病院や診療所が増加しました。禁煙治療では、医師の指導のもと、禁煙補助薬（ニコチンパッチや内服薬など）を活用しながら、依存を克服するためのサポートを受けられます。

未成年者の喫煙とニコチン依存症

日本では、「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」により、未成年者の喫煙や、未成年者に喫煙の機会を与えることは固く禁じられています。学校教育の現場でも禁煙指導が行われていますが、社会における喫煙への寛容な姿勢などもあり、未成年者の喫煙を完全に防止するには至っていません。

未成年者が喫煙を始める動機としては、「好奇心」や「何となく」といった理由が多く挙げられます。タバコは自動販売機や小売店で比較的容易に入手できてしまう現状があります。また、未成年者の喫煙行動は、友人、親、兄姉、学校の先生など、周囲の喫煙者の影響を強く受ける傾向が見られます。2010年の横浜市の調査では、中学2年生の1.5%が常習喫煙者であり、その保護者の約7割が子供の喫煙を容認していたという結果が示されました。当時の教育長は、若年での喫煙習慣が深刻な健康被害を引き起こすだけでなく、非行の入り口ともなりうる重大な課題であるとし、常習喫煙者向けの禁煙指導プログラムを策定し、保護者と協力して禁煙支援を推進する必要性を強調しています。

未成年者が喫煙を開始した場合、年齢が若ければ若いほどニコチン依存症に陥るリスクが高まります。さらに、大人以上にタバコによる健康への悪影響を受けやすく、喫煙開始年齢が低いほど、その後の健康状態や将来の発がん率が高くなることが知られています。このため、未成年者の喫煙を未然に防ぐことが極めて重要視されています。

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