二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律

「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」は、日本において20歳に満たない年齢の人々が喫煙することを禁じている法律です。かつては「未成年者喫煙禁止法」という名称でしたが、2022年 4月1日の民法改正により成年年齢が18歳に引き下げられたことに伴い、法律の題名および対象年齢の表記が変更されました。ただし、法律が適用される実質的な年齢範囲は、施行以来一貫して「満20歳に達しない者」、すなわち20歳未満のままであり、名称変更後もこの点は変わりありません。年齢の数え方については、満年齢が適用されます。

制定の経緯と歴史

この法律は、1900年（明治33年）3月7日に公布され、同年4月1日に施行されました。その制定のきっかけは、1899年（明治32年）12月に衆議院議員の根本正らが提出した「幼者喫煙禁止法案」に遡ります。当初の法案は18歳未満を対象としていましたが、当時の民法が定める成年年齢（原則20歳）との整合性を図るため、審議の過程で対象が「未成年者」（提出・制定時は20歳未満）に修正され、法律名も「未成年者喫煙禁止法」と改められました。こうして成立した法律は、明治天皇の裁可を得て公布・制定されました。

法律の主務官庁は、制定当初は内務省警保局防犯課でしたが、1947年（昭和22年）12月31日以降は警察庁生活安全局人身安全・少年課が担当しています。

その後の改正

1947年（昭和22年）5月3日の日本国憲法（昭和憲法）施行に合わせた民法改正により、法律の対象が「未成年者」から「満二十年ニ至ラザル者」へと表記が変更されました。その後長らく大きな改正はありませんでしたが、未成年者の喫煙が非行につながるという懸念などから、取締りを強化する必要性が高まりました。これを受け、未成年者飲酒禁止法（現: 二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律）と共に、2000年（平成12年）および2001年（平成13年）に相次いで改正が行われました。

2000年の改正では、未成年者へのたばこ販売等に対する罰金の最高額が50万円に引き上げられたほか、罰則の対象が販売を行った者に加えて、その経営者や法人、役員、従業員にまで拡大されました。さらに、販売業者に対して、20歳未満の者の喫煙を防止するために年齢確認を行うなどの必要な措置を講じることが明文化されました（これは努力義務規定である第4条として新設）。

そして、2022年の民法改正に伴い、前述の通り法律名と対象年齢の表記（「満二十年ニ至ラザル者」から「二十歳未満ノ者」へ）が変更され、現在の名称に至っています。

法律の主な内容

この法律の主な内容は以下の通りです。

第1条: 20歳未満の者による喫煙を禁止しています。
第2条: 20歳未満の者が喫煙した場合、所持しているたばこや喫煙器具を行政処分として没収することが定められています。
第3条: 未成年者の喫煙を知りながら、親権者やその他の監督者がこれを制止しなかった場合、科料に処せられます。
第4条: たばこや喫煙器具の販売者は、20歳未満の者の喫煙を防止するため、年齢確認その他の必要な措置を講じるよう努める必要があります。
第5条: 20歳未満の者が喫煙することを知りながら、たばこや器具を販売または供与した者には、50万円以下の罰金が科せられます。
第6条: 法人の代表者や営業者の従業員などが、その業務に関連して第5条の違反行為を行った場合、行為者だけでなく法人や営業者自身も同様の罰金が科せられます（両罰規定）。

罰則と没収に関する規定

この法律は、20歳未満の者自身が喫煙する行為そのものに対する刑事罰を直接定めてはいません。しかし、未成年者の喫煙を知りつつ制止しない親権者などの監督者には科料が、20歳未満の者の喫煙目的であることを知りつつたばこなどを販売・供与した販売業者やその関係者、法人には50万円以下の罰金が科せられます。

なお、未成年者が保護者の注意を聞かずに喫煙を繰り返すなどのケースでは、少年法に定める「保護者の正当な監督に服しない性癖」に該当するとして、家庭裁判所の審判により保護処分が行われる可能性があります。

第2条に定められている行政処分としてのたばこ等の没収については、法的な手続き規定が不明確であるため、実効性の確保に課題があるとの指摘があります。単に喫煙した事実だけをもって没収することは難しいと考えられており、現状では警察官による任意提出などの形で対応されることが多いとされます。また、第5条や第6条違反の場合に付加刑として没収を行う可能性も論理的にはあり得ますが、販売によって物の所有権が移転しているため、刑法の規定に基づいた没収は容易ではありません。

業界の対応

20歳未満の喫煙防止に向けた取り組みは、長年にわたり続けられてきました。かつてテレビCMでタバコが宣伝された時代には、特に青少年への影響が懸念され、国会でも議論の対象となりました。これを受け、タバコ業界は1985年以降、未成年者が視聴する時間帯のテレビCM停止や、未成年者に人気の有名人・アイドルの広告起用を取りやめるなどの自主規制を実施してきました。自主規制は拡大され、1998年にはテレビ、ラジオ、インターネットでのタバコ銘柄の広告が自主規制の対象となりました。

漫画業界でも、1985年に人気漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の作者が読者に向けて禁煙を呼びかけ、主人公の喫煙シーンをなくすという対応を行っています。

販売現場においては、2000年の法改正で年齢確認を行う努力義務が明文化されたことにより、未成年者への販売防止に向けた取り組みの法的根拠が確立しました。その後、2008年からはICカードシステム「taspo（タスポ）」が全国に導入され、タバコ自動販売機における年齢確認が円滑に行えるようになりました。これにより、以前は自主規制で行われていた夜間（23時～5時）の自販機販売停止が、販売店の判断で解除され、taspo搭載自販機では24時間販売が可能となっています。

厚生労働省、財務省、警察庁などの関係省庁は、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの業界団体に対し、年齢確認に加え、ポスター掲示や年齢識別機能付き自動販売機の設置といった、20歳未満の者の喫煙防止に向けた様々な措置を講じるよう指導を行っています。これに応じ、業界団体も啓発キャンペーンなどを展開しています。

法律上の課題

この法律には、日本学術会議などからいくつかの課題が指摘されています。

没収手続きの不明確さ: 第2条に定められる行政処分としての没収について、具体的な手続きに関する法令の整備が必要とされています。現状では、たばこや器具の任意提出といった形での対応に留まっている実態があります。
学校の監督責任: 第3条で親権者などの監督者の責任が定められている一方、学校における監督責任については法令上の明確な規定がなく、その整備が必要との声があります。
喫煙防止教育の徹底: 法令の執行をより効果的にするため、文部科学省が定める学習指導要領に基づいた喫煙防止教育のさらなる徹底が求められています。小学校低学年からの受動喫煙や三次喫煙を含む健康障害に関する教育の必要性が指摘されています。

法令外の処分

法律の規定とは別に、20歳未満の者が喫煙した場合、所属する学校や企業、芸能事務所などから、停学・退学、懲戒処分や解雇、謹慎といった厳しい措置がとられることがあります。これは学校の教育指導権や雇用・契約関係に基づくものであり、法的に認められている処分です。

二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律