ニコライ・キバリチチ

ニコライ・キバリチチ（1853年10月31日 - 1881年4月15日）は、ロシア帝政末期の革命家であり、科学者としての顔も持っていました。彼は、皇帝アレクサンドル2世の暗殺事件に関与したことで知られていますが、その短い生涯の中で、ロケット推進による大気中飛行の構想という、革新的なアイデアを生み出した人物でもあります。

生涯と革命運動

キバリチチは、現在のウクライナに位置するコロプという街で、正教会の司祭の息子として誕生しました。1871年にサンクトペテルブルク工科学校に入学し、その後外科学校に進学しましたが、1875年に反帝制文書を所持していたとして逮捕され、シベリアに送られることになりました。1878年に帰還した後、「人民の意志」派という秘密組織に参加し、アレクサンドル2世の暗殺計画に深く関与することになります。1881年3月1日、キバリチチは、暗殺に使用された爆弾を準備し、結果として皇帝は暗殺されました。この事件の主犯として逮捕・起訴され、ペトロパヴロフスク要塞内の拘置所に収監された後、処刑されました。

ロケット科学者としての側面

逮捕され、処刑されるまでの17日間という短い期間に、キバリチチは、火薬を連続的に爆発させることで推力を得るという、ロケット推進による飛行の構想をメモに書き残しました。彼は、このアイデアが専門家によって検討されることを望んでいましたが、メモは「このメモを学者に見せることは適当でない」というコメントと共に、ロシア帝国憲兵団本部の倉庫に保管されてしまいました。このメモが世に出たのは、ロシア革命後の1917年のことで、ニコライ・リーニンによって発見され、1918年に雑誌『ブィロエ』に掲載されました。このため、キバリチチのアイデアが、コンスタンチン・ツィオルコフスキーに代表される当時の宇宙開発に直接的な影響を与えることはなかったと考えられています。しかし、彼が「ロケット推進による大気中飛行」をロシアで初めて提唱した人物であるという事実は、彼を宇宙旅行のパイオニアの一人として位置づけるのに十分な理由となります。

ただし、キバリチチ自身は、公判での最終陳述で、このメモを弁護士に譲渡したいと述べており、メモが長期間死蔵された経緯については、別の見方もあることも考慮に入れる必要があります。

キバリチチ式手投げ爆弾

キバリチチは、「人民の意志」派のために「キバリチチ式手投げ爆弾」という爆弾を開発しました。この爆弾は、十字型のガラス管の中に、硫酸と鉄球をそれぞれ格納したシンプルな構造をしていました。投擲時に衝撃が加わると、鉄球がガラス管を割って硫酸が噴出し、爆薬に点火する仕組みになっています。安全装置として鉄球は針金で固定されており、使用時にはこの針金を引き抜くことで安全装置を解除しました。この構造の単純さと確実な動作から、「人民の意志」派だけでなく、後には社会革命党もこの爆弾を多用しました。また、キバリチチは電気火花を用いた遠隔操作による爆弾も研究していましたが、こちらは開発に成功しませんでした。

キバリチチは、革命家として、そしてロケット推進の先駆者として、歴史にその名を刻んでいます。

参考文献

『ロシア宇宙開発史』富田信之（著）東京大学出版会（2012年）
『テロ爆弾の系譜―バクダン製造者の告白』木村哲人（著）第三書館
* 『ロシア革命前史』荒畑寒村（著）筑摩書房（1967年）

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