ニコライ・ゲッダ

ニコライ・ゲッダ：比類なきテノール歌手

ニコライ・ゲッダ（1925年7月11日 - 2017年1月8日）は、20世紀を代表するテノール歌手の一人です。スウェーデンのストックホルムにロシア系家庭に生まれ、その才能は早くから開花しました。彼の歌声は、正確で美しいベルカント唱法を基盤としながらも、軽やかで伸びやかな独自の表現力に満ちていました。特に、軽々と響き渡るハイC、そして息の長いブレスコントロールによって支えられた、長く伸びる高音は聴く者の心を掴みました。さらに、ハイD、そしてファルセットーネを用いたハイFに至るまでの高音域の技術も持ち合わせており、その驚異的な歌唱力は録音にも克明に刻まれています。

華麗なる経歴とレパートリー

ゲッダは、若くしてヘルベルト・フォン・カラヤンに見出され、1950年代前半から世界各地の歌劇場で活躍を始めました。彼のレパートリーは非常に幅広く、母国語であるスウェーデン語に加え、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロシア語など、様々な言語で歌いこなしました。外国語の歌唱は、多くの歌手にとって大きな課題となることが多いのですが、ゲッダは各国の言語を自然に操り、それぞれの作品の持つ雰囲気を余すことなく表現しました。

特に、フランスオペラにおける彼の活躍は際立っていました。オッフェンバックの『ホフマン物語』、ビゼーの『カルメン』、マスネの『ウェルテル』など、フランス作品における名演は数多く、その繊細かつ情熱的な表現は高い評価を得ました。また、ウィーン・オペレッタやモーツァルトの作品、そしてロッシーニの『ウィリアム・テル』、ベッリーニの『清教徒』、チャイコフスキーの『エフゲニー・オネーギン』といったイタリアオペラやロシアオペラにおいても、彼の卓越した歌唱力は遺憾なく発揮されました。

膨大な録音と不朽の名声

ゲッダはEMIを中心に、膨大な数の録音を遺しました。これらは現在でも高い人気を誇り、彼の歌声を後世に伝えています。その録音の数、そして質の高さは、彼の音楽界における偉大な貢献を如実に物語っています。

2015年には逝去の報道がありましたが、後に撤回されました。そして2017年1月8日、ゲッダは静かに生涯を閉じました。OPERA NEWS誌は2017年2月9日に彼の死を報じ、その訃報は世界中の音楽ファンに衝撃を与えました。

ニコライ・ゲッダ。彼の名は、比類なきテノール歌手として、そしてベルカントの正統な後継者として、音楽史に永遠に刻み込まれることでしょう。彼の残した膨大な録音は、これからも人々の心を魅了し続け、その歌声は時代を超えて生き続けることでしょう。

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