ニコライ・マルコ

ニコライ・アンドレーヴィチ・マルコ：20世紀を彩った指揮者

ニコライ・アンドレーヴィチ・マルコ（1883-1961）は、ウクライナに生まれ、ロシア、ヨーロッパ、そしてオーストラリアへと活動の場を広げた、20世紀を代表する指揮者の一人です。彼の音楽に対する深い洞察力と情熱は、多くの人々に感銘を与え、音楽史にその名を刻みました。

生い立ちと音楽への目覚め

1883年、マルコはロシア帝国領のセマクィで、ウクライナ人の父とロシア人の母の間に生まれました。ペテルブルク大学で哲学を修める傍ら、音楽評論家として活動を開始。その後、ピアニスト、そして指揮者として才能を開花させていきました。ペテルブルク音楽院では、リムスキー＝コルサコフ、グラズノフ、リャードフ、チェレプニンといった巨匠たちに師事し、音楽の基礎を築き上げました。

指揮者としての飛躍

1909年、音楽院を卒業したマルコは、マリインスキー劇場の指揮者に就任。6年後には首席指揮者に昇格し、その才能を遺憾なく発揮しました。ミュンヘンではフェリックス・モットルに指揮法を師事し、ワーグナー作品の研究に没頭。1918年にはヴィテプスク音楽院の院長に就任し、後進の指導にも力を注ぎました。1921年からはモスクワ音楽院で教鞭を執り、キエフやハリコフでも指揮法を指導するなど、幅広い活動を展開しました。

1926年、レニングラード・フィルハーモニー交響楽団の常任指揮者に就任。同年、門下生であったショスタコーヴィチの《交響曲第1番》を世界初演し、その才能を世に知らしめました。翌年には《交響曲第2番「十月革命に捧ぐ」》を初演し、同作はマルコに献呈されています。また、ミャスコフスキーの《交響曲第5番》も初演し、作曲家から《交響曲第9番》を献呈されるなど、同時代の作曲家たちからの信頼も厚かったことが伺えます。

ソ連出国後の活躍

1929年、マルコは西側からの出演依頼を機にソ連を離れ、ウィーン、プラハ、コペンハーゲンへと拠点を移しました。コペンハーゲンではデンマーク放送交響楽団の創設に尽力し、永久客演指揮者の称号を授与されました。第二次世界大戦中はアメリカに渡り、指揮法の教師として活動。1950年には、自身の指揮法の技術をまとめた著書『指揮者と指揮棒』を出版し、後進の指導に貢献しました。

コペンハーゲン時代からEMIレーベルで積極的に録音を行い、フィルハーモニア管弦楽団との録音も行うなど、録音活動も積極的に行いました。1954年にはイギリスのヨークシャー交響楽団の首席指揮者に迎えられています。

オーストラリアでの晩年

1956年、マルコはオーストラリアに渡り、シドニー交響楽団の首席指揮者に就任。1961年にシドニーで亡くなるまで、音楽監督として楽団を率いました。1959年には、米国国務省の認可を得てソ連文化省の招聘に応じ、30年ぶりに帰国。モスクワ、レニングラード、キエフで指揮を執り、聴衆を魅了しました。同年には、東京交響楽団に招かれて日本にも訪れています。1960年には、デンマーク王フレデリク9世よりダンネブロ騎士勲章を授与されました。

その他のエピソード

マルコは、国際的な音楽家団体「デルタ・オミクロン」の会員でもありました。『ショスタコーヴィチの証言』には、マルコがショスタコーヴィチに《二人でお茶を》の編曲を依頼したエピソードが語られています。EMI初の公式ステレオ録音は、マルコがフィルハーモニア管弦楽団を指揮したプロコフィエフ作品集でした。

ニコライ・マルコは、その卓越した音楽性と指導力で、20世紀の音楽界に多大な貢献をしました。彼の音楽は、今もなお多くの人々に愛され続けています。

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