ニコラウス・ブルーンス

ニコラウス・ブルーンス（Nicolaus Bruhns、1665年頃生 – 1697年3月19日没）は、17世紀後半のドイツ・バロック時代に活動した作曲家であり、傑出したオルガニストでした。特に、この時代の北ドイツにおける音楽の中心的人物であったディートリヒ・ブクステフーデが、自らの門下生の中でも彼を最も高く評価していたことでも知られています。

彼の音楽的な道のりは、故郷シュヴァープシュテットでオルガン奏者を務めていた父パウル（1640年頃生 – 1689年頃没）からの基礎的な指導に始まりました。その後、更なる研鑽を積むため、当時の北ドイツ音楽界の巨匠であったブクステフーデの門を叩きました。ブクステフーデのもとでの学びは、ブルーンスのその後のキャリア形成に決定的な影響を与えました。師の強い推薦もあり、彼はデンマークの首都コペンハーゲンにある宮廷で、ヴァイオリン奏者および作曲家として最初の重要な職を得ることになります。この時期に培われた多様な経験が、後年の多才な音楽活動に繋がったと考えられます。

1689年、ブルーンスは北ドイツのシュレスヴィヒ＝ホルシュタイン地方にあるフースム市の重要な役職であるオルガニストに任命されました。彼はこの地位に留まり、精力的に活動を続けましたが、残念ながらその生涯は非常に短いものでした。1697年3月19日、わずか30代前半で不慮の死を遂げたと伝えられています。正確な没年齢については31歳説と32歳説が存在し、またその悲劇的な死因についても詳細は明らかになっていません。若き才能の急逝は、当時の音楽界にとって大きな損失でした。

ブルーンスは主にオルガニストとしてその名を馳せましたが、彼の音楽的な才能はオルガン演奏に留まるものではありませんでした。彼はきわめて多才な音楽家であり、特に独創的な即興演奏で知られています。オルガンのペダルを用いて力強いバス声部を奏でながら、同時にヴァイオリンを操り、華麗で自由な旋律線を即興的に加えるというユニークな演奏スタイルは、同時代の人々を驚かせたと言われています。また、彼は当時の教会カンタータ作曲家としても傑出した才能を発揮しました。現存する作品数は決して多くありませんが、彼のカンタータは表現力豊かで高い芸術性を持っており、当時の教会音楽の重要な一端を担っていました。さらに、室内楽曲も作曲したと伝えられていますが、残念ながらこれらの楽譜は今日に至るまで発見されておらず、その内容は不明です。

後世の音楽家たちも、ブルーンスの音楽を高く評価していたことが伝えられています。特に、バロック音楽最大の巨匠とされるヨハン・ゼバスティアン・バッハが、彼の作品を敬愛していたという逸話はよく知られています。J.S.バッハの息子であるカール・フィリップ・エマヌエル・バッハが、父の最初の伝記を執筆したヨハン・ニコラウス・フォルケルに語った話によれば、J.S.バッハはブルーンスの作品から多くのインスピレーションを得て、熱心に研究・模倣したとされています。ただし、この伝承が具体的にどのような音楽的な影響を示しているのかについては、現在も音楽学者の間で議論の対象となっており、明確な結論は出ていません。

短い生涯ではありましたが、ニコラウス・ブルーンスはオルガン音楽をはじめ、教会音楽や即興演奏において、その非凡な才能を遺憾なく発揮しました。ブクステフーデの高弟として、そしてJ.S.バッハにも影響を与えた可能性のある音楽家として、17世紀ドイツ音楽史において重要な位置を占める人物と言えるでしょう。彼の残したオルガン作品や教会カンタータは、今日でも演奏され、多くの聴衆に感動を与えています。

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