ニコラエ・ミレスク

ニコラエ・ミレスク（Nicolae Milescu, 1636年 - 1708年）は、モルドバ公国（現在のルーマニア）の貴族の家に生まれ、文人、政治家として活躍しました。ミレスクは本名であり、ロシアではスパファリー（Спафа́рий）の名で知られています。

生涯

1636年、ミレスクはモルドバのバスルイ近郊のミレシュティで誕生しました。彼はコンスタンティノープル（現在のイスタンブール）にある東方正教会の総主教府付属アカデミー（神学校）で学び、その後、モルドバの首都ヤシに戻り、軍の司令官（長官）に任命されました。しかし、1668年、モルドバ公国の君主の地位を狙った陰謀計画が発覚し、ミレスクは鼻を削ぎ落とされるという刑罰を受けました。

刑罰を受けたミレスクは、その後亡命生活を送り、ドイツ、フランス、スウェーデンを転々としました。1671年、モスクワに辿り着き、ロシア外務省使節局で翻訳官（通訳）として勤務することになりました。1675年には、ロシア皇帝の外交使節団の団長として北京に派遣されましたが、宮廷での叩頭を拒否したため、北京派遣の目的は達成されませんでした。

この北京派遣の際に、ミレスクは『トボリスクから中国国境までのシベリア王国旅行記』（1675年執筆、1882年刊）と『中国紀行記または使節団報告書』（1675年から1678年に執筆、1906年刊）を著しました。これらの著作は、「当時のシベリア、中国の自然、社会制度、風俗を知る貴重な文献」として高く評価されています。彼はこれらの著作で、当時のシベリアや中国の様子を詳細に記述しており、歴史的に重要な資料となっています。

ミレスクは、他にもギリシア語訳『旧約聖書』をルーマニア語に重訳したり、東方教会の神学に関する論文を著したりするなど、幅広い分野で活躍しました。これらの業績からも、彼の学識の高さが窺えます。1708年、ミレスクはモスクワで生涯を閉じました。

ミレスクは、モルドバ公国出身でありながら、その才能と知識を生かして様々な国で活躍し、特にロシアでは外交官、著述家として名を残しました。彼の著した旅行記は、当時のシベリアや中国を知る上で非常に貴重な資料であり、今日でも多くの研究者に参考にされています。

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