ニコリノ・ローチェ

ニコリノ・ローチェ

アルゼンチンが生んだ稀代のプロボクサー、ニコリノ・ローチェ（Nicolino Locche）は、1939年9月2日にこの世に生を受け、2005年9月8日に66年の生涯に幕を閉じた。元WBA世界スーパーライト級チャンピオンとして、その卓越した技術と戦績により、彼はボクシング史において重要な地位を占めている。

来歴

ローチェがプロのリングでの第一歩を踏み出したのは1958年12月11日のことである。記念すべきデビュー戦で、彼は対戦相手をわずか2ラウンドでマットに沈める鮮烈なノックアウト勝利を収め、その後の輝かしいキャリアの序章を飾った。

プロ転向後、着実に戦績を積み重ねたローチェに、キャリア最大の機会が訪れる。プロボクサーとして実に107戦という豊富な経験を積んだ後の1968年12月12日、彼はキャリアで初めての世界タイトルマッチに挑むこととなった。この歴史的な一戦は、日本の首都・東京にある蔵前国技館で行われた。対戦相手は、当時のWBA世界スーパーライト級チャンピオンであり、世界ランキング1位の指名挑戦者として迎え撃つ日本の藤猛である。ローチェは、この大舞台でその実力を遺憾なく発揮し、第10ラウンドでチャンピオンの藤猛を試合放棄に追い込むという劇的な結末をもって勝利を収めた。この勝利により、彼は念願のWBA世界スーパーライト級王座を獲得し、世界の頂点に立ったのである。

世界チャンピオンの座に就いたニコリノ・ローチェは、その後、母国アルゼンチンのブエノスアイレスを主要な防衛戦の舞台とした。彼はこの地で、実に5度にわたる王座防衛に成功している。これらの防衛戦では、後に同階級の世界チャンピオンとなる強豪アントニオ・セルバンテスや、一発のパンチに破壊力を持つことで知られたアドルフ・プルートといった、ボクシング界の実力者たちからの厳しい挑戦を受けた。しかし、ローチェはこれらの難敵たちを退け、チャンピオンの座を揺るぎないものとした。彼の防御技術と巧みな試合運びは、対戦相手に決定的なダメージを与えることを許さず、興味深いことに、これらの5度の防衛戦はすべて、最終ラウンドである第15ラウンドまで戦い抜いた末の判定による勝利であった。

王座在位中の5度の防衛は全て母国で行われたが、チャンピオンとして迎えた6度目の防衛戦は、ローチェのキャリアにおいて初めて海外で行われるタイトルマッチとなった。1972年3月10日、彼はパナマのリングでアルフォンソ・フレーザーと対戦した。この異国の地での一戦は、ローチェにとって不運な結果となり、彼はフレーザーに敗北を喫し、長年にわたり守り抜いてきたWBA世界スーパーライト級王座を失うこととなった。

世界王座から陥落した後も、ローチェは再び頂点を目指す強い意志を失わなかった。1973年3月17日、彼はかつて防衛戦で勝利した経験を持つアントニオ・セルバンテスが保持する世界王座に挑戦者として再び挑んだ。しかし、この二度目の対戦では、彼は第9ラウンドにセルバンテスの強打の前にKO負けを喫し、再び世界チャンピオンの栄冠を掴むことは叶わなかった。

プロボクサーとしての長いキャリアは、1976年8月7日の試合をもって終止符が打たれた。この一戦を最後に、ニコリノ・ローチェは現役を引退した。リングを離れて静かな生活を送っていた彼は、2005年9月8日、自身の生まれ故郷であるアルゼンチンのメンドーサ州で逝去した。享年66歳であった。

獲得タイトル

WBA世界スーパーライト級王座（防衛5度）

関連項目

男子ボクサー一覧
* [世界ボクシング協会]世界王者一覧

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