ニック・ロウ

1949年 3月24日、イギリスに生まれたニック・ロウは、ロックミュージシャン、作曲家、ベーシスト、そして音楽プロデューサーとして、半世紀以上にわたり音楽界で活動を続けている。

初期活動と「ピース、ラヴ・アンド・アンダースタンディング」

ロウのキャリアは、1966年にバンド、キッピングトン・ロッジのメンバーとして始まった。このバンドは後にブリンズリー・シュウォルツと改名し、1970年代のイギリスにおけるパブロック・シーンを代表する存在へと成長する。ザ・バンドからの影響を受けた彼らの音楽性は高く評価されたものの、商業的な成功には恵まれなかった。しかし、この時期にロウが手掛けた楽曲「ピース、ラヴ・アンド・アンダースタンディング」は、当時のヒットチャートこそ逃したものの、その後多くのアーティストによってカバーされ、平和と理解を求める普遍的なアンセムとして歌い継がれることとなる。

プロデューサー、そしてロックパイル

1975年にブリンズリー・シュウォルツが解散すると、ロウは活動の場を広げる。特に、新興レーベルであるスティッフ・レコードのハウス・プロデューサーとして、彼はその手腕を遺憾なく発揮した。パンク・ロック黎明期の重要なアルバムであるザ・ダムドの『地獄に落ちた野郎ども』などを手掛け、プロデューサーとしても確固たる評価を確立する。同時に、ギタリストのデイヴ・エドモンズらと共にロックパイルを結成し、ルーツロックやパブロックをベースにした質の高い音楽を追求した。

ソロでの成功と多岐にわたるキャリア

1979年、ロウはソロ名義、またはロックパイルとしての活動を通じて、代表曲となる「恋するふたり（Cruel to Be Kind）」をリリースする。この曲は全米ビルボード・ホット100で12位、母国イギリスのチャートでも12位を記録し、彼の名を広く知らしめた。ロックパイル解散後も、ロウはソロアーティストとして精力的に活動を続け、コンスタントにアルバムを発表する傍ら、プロデューサーとしてもエルヴィス・コステロやプリテンダーズといった有力アーティストの作品を手掛け、彼らのサウンドメイクに貢献した。

また、彼は様々な形で音楽的コラボレーションを行った。1980年代末には、ライ・クーダー、ジョン・ハイアット、ジム・ケルトナーといった実力派ミュージシャンと共にスーパーグループ、リトル・ヴィレッジを結成。1992年に発表された唯一のアルバム『LITTLE VILLAGE』は、彼らの円熟した演奏とソングライティングが光る作品となった。

作品と評価

ソロ名義だけでも『ジーザス・オブ・クール』(1978年)、『レイバー・オブ・ラスト』(1979年)といった初期の名盤から、2024年の『インドア・サファリ』に至るまで、長いキャリアの中で多数のスタジオアルバムを発表している。これらに加え、ライブアルバムやEP、コンピレーション盤なども含めると、そのディスコグラフィは膨大な量に及ぶ。

彼の代表曲としては、「恋するふたり」や「ピース、ラヴ・アンド・アンダースタンディング」の他、「アイ・ニュー・ザ・ブライド」「アイ・ラヴ・ザ・サウンド・オブ・ブレイキング・グラス」「ハート・オブ・ザ・シティ」などが挙げられる。また、別名義であるタータン・ホードとしてリリースした「憧れのベイ・シティ・ローラーズ」なども彼のソングライティングの幅広さを示している。

プロデューサー、バンドメンバー、そしてソロアーティストとして、ニック・ロウは常に第一線で活動を続けてきた。特にソングライターとしての彼の才能は高く評価されており、シンプルながらも心に響くメロディと、ユーモアや皮肉を交えた歌詞は、世代を超えて多くのファンを魅了している。パブロックやニュー・ウェイヴ、パワーポップといったジャンルに影響を与えた重要人物でありながら、晩年になるにつれてより内省的で味わい深い音楽性へと変化を見せ、現在もなお精力的な活動を続けているベテランアーティストである。

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