ニナ・ベイリナ

ニナ・ミハイロヴナ・ベイリナ

ヴァイオリニスト、その輝かしい軌跡

1931年3月4日、ウクライナ社会主義ソビエト共和国の港湾都市オデッサに生を受けたニナ・ミハイロヴナ・ベイリナは、旧ソ連が生んだ傑出したヴァイオリン奏者の一人です。彼女の生涯は、ソビエト連邦の厳格かつ優れた音楽教育制度のもとで才能を開花させ、世界の舞台へと羽ばたき、やがて活動の場をアメリカ合衆国へと移すという、波乱に富んだものでした。

ベイリナは幼い頃からヴァイオリンに非凡な才能を示し、その道を究めるべく最高学府での学びを深めます。1953年、彼女は名門モスクワ音楽院に入学し、高名なヴァイオリン教育者であるアブラム・ヤンポリスキー教授に師事しました。ヤンポリスキーのもとで、ベイリナはヴァイオリニストとしての揺るぎない基礎技術と音楽的な素養を徹底的に磨き上げました。続く1957年には、レニングラード音楽院にてユーリ・エイドリンに学び、新たな視点からの音楽的探求を進めます。そして1959年、再びモスクワ音楽院へと戻ることを選び、世界のヴァイオリン界において伝説的存在であった巨匠ダヴィッド・オイストラフのクラスに入ることが許されました。1961年までの二年間、オイストラフという最高の指導者のもとで過ごした時間は、ニナ・ミハイロヴナ・ベイリナの芸術家としての形成期において、間違いなく最も決定的な影響を与えた期間であったと言えるでしょう。偉大な師から受けた薫陶は、彼女の演奏に深みと独自の色彩を与えました。

ソビエトでの充実した教育課程を終えたベイリナは、程なくして国際的な舞台へとその名を知らしめることになります。1960年代初頭は、彼女のキャリアが大きく飛躍した時期でした。まず1961年、ルーマニアの首都ブカレストで開催された権威あるジョルジュ・エネスク国際コンクールのヴァイオリン部門に出場。世界中から集まった才能あふれる若手精鋭たちとの熾烈な競争の中で、彼女は見事優勝を果たしました。この輝かしい成功は、彼女の国際的なソリストとしてのキャリアを切り開く扉となりました。翌1962年には、母国ソ連で開催され、その審査の厳しさで知られるチャイコフスキー国際コンクールのヴァイオリン部門に挑戦します。ここでも彼女は卓越した演奏を披露し、堂々たる第2位に入賞しました。そして1963年、フランスのパリで行われたロン＝ティボー国際コンクールのヴァイオリン部門にも出場。ここでも再び第2位という素晴らしい成績を収めました。これら国際的に評価の高いコンクールでの連続した入賞は、ニナ・ミハイロヴナ・ベイリナがソビエト連邦国内にとどまらず、世界レベルで通用するヴァイオリニストであることを決定的に証明し、彼女の名声を確固たるものとしました。

国際的な成功を収めた後、ニナ・ミハイロヴナ・ベイリナは旧ソ連国内を中心に、精力的な演奏活動を展開していたと考えられます。しかし、1977年、彼女の人生とキャリアにおいて重要な転換点が訪れます。この年、彼女はアメリカ合衆国へと移住することを決断し、活動の主軸をアメリカへと移しました。当時のソ連からの芸術家や知識人の移住は、様々な個人的あるいは社会的な背景を伴うことが少なくありませんでしたが、ベイリナの移住の具体的な理由は必ずしも公になっていません。アメリカに移住してからも、ベイリナはヴァイオリニストとしての活動を続けました。新たな環境であるアメリカ合衆国を活動の本拠地とし、コンサートやリサイタルなどを通じてその卓越した演奏を披露し続けたと思われます。

長い年月にわたりヴァイオリンとともに歩んだニナ・ミハイロヴナ・ベイリナは、2018年11月25日、87歳でその生涯を閉じました。彼女の訃報は、活動の拠点であったアメリカ、そして生まれ故郷である旧ソ連の関係者やファンに悲しみをもって受け止められました。旧ソ連で最高の教育を受け、世界の主要なコンクールで成功を収め、やがてアメリカへと渡り活動を続けた彼女の軌跡は、激動の20世紀後半を生きた一人の音楽家の証として、クラシック音楽史に刻まれるべきものです。

もう一度検索