ニュークリア・シェアリング

ニュークリア・シェアリング（核共有）とは

ニュークリア・シェアリング（Nuclear Sharing）、または核共有とは、北大西洋条約機構（NATO）の核抑止政策における重要な概念です。これは、核兵器を保有しないNATO加盟国が、NATOによる核兵器の使用計画に組織的に関与することを指します。特に、核兵器が実際に使用される際には、これらの国の軍隊が核兵器の運搬といった作戦行動に加わることを想定しています。

ニュークリア・シェアリングの仕組み

ニュークリア・シェアリングの枠組みにおいて、参加国は核兵器政策に関する協議に参加し、共同で意思決定を行います。また、核兵器の使用に必要な技術的な設備、特に核兵器を搭載可能な航空機の維持を担います。さらに、これらの国は自国の領土内に核兵器を保管することも認められています。ただし、平時には、非核保有国に保管されている核兵器はアメリカ空軍の要員が警備しており、最終的な使用許可に必要なパーミッシブアクションリンクコードはアメリカが管理しています。有事の際には、参加国の軍用機に核兵器が搭載されることになります。これらの兵器は、NATOの主要作戦基地に併設されたアメリカ空軍の軍需支援飛行隊によって管理され、ホスト国軍と連携して運用されます。

NATOにおけるニュークリア・シェアリング

NATO加盟国の中で核兵器を保有しているのは、アメリカ、フランス、イギリスの3ヶ国です。しかし、ニュークリア・シェアリングのために実際に核兵器を提供しているのはアメリカのみです。2009年11月時点で、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコがアメリカの核兵器を受け入れています。過去には、カナダとギリシャも同様に核兵器を受け入れていました。イギリスもかつてはアメリカから戦術核兵器を受け取り、主にドイツに配備していました。

2021年時点では、約100個の戦術核爆弾B61がヨーロッパに配備されており、これらはアメリカ空軍のWS3兵器保管・セキュリティシステムによって厳重に管理されています。これらの核兵器は、F-16やパナビア・トルネードといった戦闘機に搭載して運用されることを想定しています。

歴史的には、核兵器の運搬システムの共有は、爆弾だけに限定されたものではありませんでした。例えば、ギリシャはナイキ・ヘラクレス・ミサイルやA-7コルセアII攻撃機を使用し、カナダはボマーク核武装対空ミサイル、オネスト・ジョン地対地ミサイル、AIR-2ジニー核武装空対空ロケット、CF-104戦闘機用戦術核爆弾を保有していました。また、イタリアやトルコでは、PGM-19 ジュピター中距離弾道ミサイルが、アメリカのデュアルキーシステムによって共有されていました。ソ連崩壊後、NATO内で共有される核兵器の種類は減少し、現在は戦術核爆弾が中心となっています。

ニュークリア・シェアリングの現状

現在、イタリアでは、ゲディ空軍基地とアヴィアーノ空軍基地にB61核爆弾が保管されています。ドイツでは、ルクセンブルクとの国境に近いビューヒェル空軍基地に核兵器が保管されており、同基地には、最大で44個のB61核爆弾を収容できるWS3保管庫が設置されています。オランダでは、フォルケル航空基地に核兵器が存在することが確認されています。また、トルコのインジルリク空軍基地にも、アメリカの管理下で戦術核兵器が保管されていますが、近年、アメリカとトルコの関係が不安定化していることから、これらの兵器の撤去も検討されています。

核拡散防止条約（NPT）との関係

ニュークリア・シェアリングは、核拡散防止条約（NPT）の第1条と第2条に違反するという批判があります。NPTでは、核兵器の移転や受領を禁じていますが、アメリカ政府は、この条約が適用されるのは戦争勃発時までであり、平時においてはNPTに違反しないと解釈しています。しかし、非核保有国が核兵器の運用に関与することは、NPTの精神に反するという指摘もあり、実質的に核戦争の準備が非核保有国によって行われているという主張も存在します。また、NPTの交渉中に、NATOのニュークリア・シェアリング合意は秘密事項であり、合意の存在とその解釈を知らなかった国も多かったという経緯があります。

日本における核共有論

日本では、過去に核兵器の保有を主張する意見がありました。旧陸軍の服部卓四郎元大佐は、「小型核兵器」の保有を提唱し、武力戦を抜きにしても核兵器を持つべきだと主張しました。彼は、アメリカから提供を受けることを想定していたようです。また、田中新一元中将は、自衛隊の増強と精強化の観点から、「原子兵器の装備も一つの予防的意義がある」と述べていました。1958年には、日米共同図上演習において、自衛隊幹部からアメリカ軍に対し、核兵器の貸与や核武装した場合の支援について質問がなされ、アメリカ側は「核兵器に関する支援の提供は日本の要望と能力次第」としつつも、「日本が自衛隊に適切な核兵器を導入することを望む」との見解を示していました。

しかし、2022年のロシアによるウクライナ侵攻を受け、核共有の議論が一部で提言された際、岸田文雄首相は「非核三原則を堅持している立場や、原子力の平和利用を規定している原子力基本法を基本とする法体系から認めるのは難しい」と答弁し、核共有に否定的な立場を示しました。

まとめ

ニュークリア・シェアリングは、NATOの核抑止戦略の中核をなす重要な要素です。核兵器を保有しない国々が核兵器の使用に関与することで、集団安全保障体制を強化する役割を担っています。しかし、核拡散防止条約との関係や、非核保有国が核兵器の運用に関与することに対する倫理的な懸念も存在します。今後も、核兵器を巡る国際情勢の中で、ニュークリア・シェアリングは重要な議論の対象となるでしょう。

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