ニュートロン (ロケット)

ニュートロン (Neutron)

ニュートロンは、アメリカとニュージーランドに拠点を置く宇宙企業、ロケット・ラボによって現在開発が進められている人工衛星打ち上げ用の中型液体燃料ロケットです。近年、多数の小型衛星を連携させて広範囲の通信や観測を行う「メガコンステレーション」の構築が活発化しており、ニュートロンはこの急成長する衛星打ち上げ市場のニーズに応えることを主要な目的としています。開発計画が初めて公表されたのは2021年3月のことで、現在、2025年以降の運用開始を目指しています。

設計の特徴

ニュートロンは全長42.8メートル、最大直径7メートルの中型ロケットに分類されますが、その外観は従来のロケットとは一線を画します。機体底部に向かって大きく広がる円錐台形という、極めてユニークなデザインを採用している点が最大の特徴です。

この特異な形状は、主に打ち上げ後に地上へ機体を垂直に着陸させ、ロケットの1段目を再使用することを可能にするための重要な工夫です。底部を広く設計することで、着陸時の機体の安定性を高め、専用の発射台設備に依存しないシンプルな回収・再使用プロセスを実現することを目指しています。

さらに、ペイロード（人工衛星など）を保護するフェアリングも、回収して再使用できるようロケットの1段目に統合されています。このため、2段目が1段目の内部に懸架されるという、極めて独創的な構造を取っています。機体構造には、ロケット・ラボの小型ロケット「エレクトロン」でも実績があり、軽量かつ高強度の炭素繊維複合材が多用されています。

推進システム

ニュートロンの推進には、新開発のロケットエンジン「アルキメデス」が用いられます。このエンジンは、クリーンで比較的取り扱いが容易な液体メタンと液体酸素（LOX）を推進剤として使用します。

• - アルキメデスエンジン:

- 燃料: 液体メタン / 液体酸素 (LOX)
- 推力: 約165,000 lbf (およそ730キロニュートン)

• - 搭載数:

- 1段目: 9基（上昇の主力）
- 2段目: 1基（軌道投入、真空での性能を最適化）

開発の変遷

ニュートロンの設計は、2021年3月に開発計画が公表されて以来、段階的に大きな変更を遂げてきました。当初発表された設計案は、全長約40メートルで比較的オーソドックスな円筒形をしており、直径4.5メートルのフェアリングを備えていました。1段目の回収方法も、洋上の無人プラットフォームに着陸させる方式が想定されており、これは既にスペースX社のファルコン9で実用化されている手法を小型化したような設計でした。

しかし、開発発表からわずか9ヶ月後の同年末、2021年12月の発表において、現在知られている特徴的な円錐台形の設計へと全面的に刷新されました。これは、地上への垂直着陸と再使用性の最適化を追求した結果と考えられます。さらに、2022年9月には、推進システムの中核であるアルキメデスエンジンや、ユニークな構造を持つ統合型フェアリングの詳細設計についても、更なる変更点が公表されています。

運用計画

ニュートロンの最初の打ち上げは、アメリカ東海岸のバージニア州にある中部大西洋地域宇宙基地（MARS）から行われる計画です。ロケット・ラボは、打ち上げ頻度の向上とコスト削減を見据え、この打ち上げ基地の近傍にロケット製造施設を建設するための用地確保も進めています。

当初、初打ち上げは2024年中の実施が予定されていましたが、開発プロセスの遅延などを受け、2024年時点では2025年半ば以降となる見込みが示されています。

打ち上げ能力と将来展望

ニュートロンの地球低軌道へのペイロード能力は、運用の構成によって異なります。

• - 使い捨て構成: 最大15,000 kg
• - 1段目を発射地点へ帰還・再使用する構成: 8,000 kg

この能力は、多様なサイズの衛星や複数の衛星を一度に打ち上げるミッションに対応できる十分なものです。ロケット・ラボはさらに、ニュートロンが将来的に有人宇宙飛行ミッションにも対応できるような設計を、開発の初期段階から考慮に入れています。これは、同社が人工衛星打ち上げだけでなく、より広範な宇宙輸送サービスへの進出を目指していることを示唆しています。

ニュートロンは、ロケット・ラボの新たな主力ロケットとして、将来の宇宙開発において重要な役割を果たすことが期待されています。

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