ニューヨーク・シティ・バレエ団

ニューヨーク・シティ・バレエ団（NYCB）

ニューヨーク・シティ・バレエ団（New York City Ballet、略称：NYCB）は、アメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタンに本拠を置く、世界的に著名なバレエ団です。約90名のダンサーを擁し、総勢889名の従業員が運営を支えています。経済規模においても、総資産がおよそ3億1200万ドル、年間総収入が8560万ドルに達するなど、アメリカ国内のバレエ団としては最大の資産・収入規模を誇ります。主な活動拠点であるニューヨーク公演は、リンカーン・センター内にあるデイヴィッド・H・コーク劇場で行われ、夏季にはニューヨーク州北部のサラトガ・スプリングズ市でも公演を開催しています。

設立と発展の道のり

NYCBの歴史は、1933年に米国の舞踊評論家リンカン・カーステインが、当時ヨーロッパで活躍していた振付家ジョージ・バランシンをアメリカに招いたことから始まります。カーステインはアメリカにおけるバレエの発展を強く願っており、バランシンの「まず優れたダンサーを育成すべき」という考えを受け入れ、その第一歩としてアメリカン・バレエ学校（School of American Ballet）を創設しました。

この学校の生徒や卒業生によって、1935年3月には「アメリカン・バレエ（The American Ballet）」として最初の公演が行われました。カーステインが企画・経営、バランシンが監督・振付を担当するという協力体制は、その後の団体の基礎となります。同年秋にはメトロポリタン・オペラ劇場の専属バレエ団となりましたが、1938年には契約を終了し、一度解散するに至りました。

カーステインは1936年3月には「バレエ・キャラバン（Ballet Caravan）」という小規模なバレエ団を立ち上げ、若手ダンサーに機会を与えましたが、これも1940年9月に解散しました。しかし、バレエ学校は継続して存続していました。1941年には、かつてのアメリカン・バレエが再び組織され、国務省の支援を受けて中南米への巡演を行いましたが、帰国後の同年11月には再び解散となりました。

第二次世界大戦後、1946年に「バレエ協会（Ballet Society）」として活動を再開し、会員制での公演を実施しました。そして1948年4月、ニューヨーク・シティ・センターと契約を結び、その専属バレエ団となった際に、今日の名称である「ニューヨーク・シティ・バレエ団」に改称しました。この時期には、後にABT（アメリカン・バレエ・シアター）でも活躍するジェローム・ロビンズが助監督に就任しています。1950年代にはヨーロッパや日本を含む海外公演を行い、国際的な評価を確立しました。また、フォード財団からの支援も活動を後押しし、1964年には現在の本拠地であるリンカーン・センター内のニューヨーク州立劇場（現デイヴィッド・H・コーク劇場）へ移転しました。

バランシンの芸術とレパートリー

創設者であるジョージ・バランシンが確立した芸術性が、NYCBのレパートリーの大きな特徴となっています。特に、物語性よりも音楽と身体の動きそのものに焦点を当てた「抽象バレエ」の作品群が膨大です。物語性のある作品（例えば『放蕩息子』や『真夏の夜の夢』など）もレパートリーに含まれていますが、英国ロイヤル・バレエ団のような他の伝統的なバレエ団と比較すると、その割合は少ない傾向にあります。また、作曲家別に見ると、イーゴリ・ストラヴィンスキーの作品が数多く取り上げられているのも、バランシンとストラヴィンスキーの関係性からくる特徴です。団員の多くは、傘下のアメリカン・バレエ学校で訓練を受けており、独自の基準に基づいた採用と育成が行われています。

近年の展開と課題

1981年にバランシンが病に倒れると、彼によって後継に指名されたプリンシパルのピーター・マーティンスがバレエマスターとして芸術的方向性を担うことになりました。現在も年間数作品の新作が発表され、同時にバランシン作品の復刻上演も精力的に行われています。しかし、近年の新作については、小品が多く、バレエ団全体の芸術的方向性が見えにくい、質が低下しているといった批判的な声も聞かれます。こうした状況に対し、2008年以降はボリショイ・バレエ団の芸術監督を務めた経験を持つアレクセイ・ラトマンスキーのような外部の著名な振付家にも新作を依頼するなど、新たな試みも行われています。

一方で、組織運営における大きな変化もありました。2018年1月1日、芸術監督を務めていたピーター・マーティンスが退団したことが報じられました。これは、彼に対するセクハラやパワハラといった疑惑が浮上し、バレエ団が事実関係の調査に乗り出した直後の出来事でした。マーティンス自身は疑惑を否定しています。

ニューヨーク・シティ・バレエ団は、その長い歴史とバランシンの遺産を継承しつつ、現代のバレエ界における挑戦や変化にも向き合いながら活動を続けています。

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