ニューヨーク9番街57丁目

スティング『ニューヨーク9番街57丁目』解説

『ニューヨーク9番街57丁目』（原題：57th & 9th）は、イギリスのミュージシャン、スティングが2016年にリリースした12枚目のスタジオ・アルバムです。2000年代後半以降、クラシック音楽や劇伴の制作が続いていたスティングにとって、『セイクレッド・ラヴ』（2003年）以来、実に13年ぶりのロック/ポップス作品となりました。

制作背景

本作の制作は、ドミニク・ミラーやヴィニー・カリウタといった長年の盟友たちとのセッションから始まりました。そこで生まれたアイデアを基に楽曲が構築されるという、スティング自身が「短期間でアルバムを作る」と語るプロセスで制作されました。アルバムタイトルは、スティングが自宅から仕事場へ向かう際に通過するニューヨークの交差点名に由来します。

楽曲について

「アイ・キャント・ストップ・シンキング・アバウト・ユー」には、ザ・ラスト・バンドレーロスのメンバーがバッキング・ボーカルとして参加。同バンドのジェリー・フエンテスは、「50,000」のバッキング・ボーカルと「ジ・エンプティ・チェア」のギター演奏も担当しています。「50,000」は、プリンス、デヴィッド・ボウイ、グレン・フライ、レミー・キルミスターといったミュージシャンの相次ぐ死に影響を受け、喪失感を表現した楽曲です。

「ジ・エンプティ・チェア」は、2014年にISISによって殺害されたアメリカ人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリーに捧げられた曲。J・ラルフが作曲し、スティングが作詞を担当、ドキュメンタリー映画『Jim: The James Foley Story』のエンドクレジットに使用されました。

リリースと収録曲

通常盤には10曲が収録されていますが、デラックス・エディション盤にはボーナス・トラック3曲とスティング自身によるライナーノーツが追加されました。ボーナス・トラックには、ポリス時代の楽曲「ネクスト・トゥ・ユー」のザ・ラスト・バンドレーロスとのライブ共演バージョンも収録されています。日本盤は通常盤、DVD付属の限定盤ともにデラックス・エディションに準じた内容となっています。2017年には日本公演を記念して「ジャパン・ツアー・エディション」が発売され、2016年11月のバタクラン公演におけるライブ音源6曲が追加収録されました。

収録曲

1. アイ・キャント・ストップ・シンキング・アバウト・ユー
2. 50,000
3. ダウン、ダウン、ダウン
4. ワン・ファイン・デイ
5. プリティ・ヤング・ソルジャー
6. ペトロール・ヘッド
7. ヘディング・サウス・オン・ザ・グレート・ノース・ロード
8. イフ・ユー・キャント・ラヴ・ミー
9. インシャラ
10. ジ・エンプティ・チェア

各国のチャート成績

全英アルバムチャートでは最高15位を記録し、7週間トップ100入り。アメリカではBillboard 200で初登場9位となり、6週にわたりトップ200入りしました。ドイツではアルバム・チャートで初登場3位を記録し、14週にわたりトップ100入りするヒットとなっています。

評価と受賞

「ジ・エンプティ・チェア」は、第89回アカデミー賞歌曲賞にノミネートされました。

All About JazzのNenad Georgievskiは、本作を5点満点中4点と評価し、「最も重要な特色は、ソングライティングが卓越していることだ」と評しました。AllMusicのStephen Thomas Erlewineも5点満点中4点を付け、「壮大なコンセプトも、統一的な美学もなく、単にポップ・ソングを集めただけである。とはいえ、それは必ずしも悪いことではない。スティングはしばしば、作曲家としては過小評価されてきたが、本作で届けられた10曲は、実に良くできており魅力的である」と述べています。

bounce誌の大鷹俊一は、「ぶっといドラムス&ギターがリードする冒頭曲を聴き、ポリスの再結成ツアーを思い出した」「ロックはもちろん、ジャズやクラシック音楽、トラッドほか、さまざまなスタイルに挑戦して成功を収め、〈もうやることはないんじゃないの!?〉とも思える彼が、みずからの音楽的な欲望に忠実になったこの新作は、集大成と呼ぶに相応しい奥深い一枚だ」と評しています。

『ニューヨーク9番街57丁目』は、スティングの音楽的な探求心と卓越したソングライティングが融合した、聴きごたえのあるアルバムです。

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