ニュー・イヤーズ・デイ (U2の曲)

New Year's Day

「ニュー・イヤーズ・デイ」は、アイルランドのロックバンド、U2が1983年に発表した3枚目のアルバム『WAR(闘)』に収録された楽曲であり、同アルバムからのリードシングルとしてリリースされました。この曲はU2にとって初めて全英シングルチャートのトップ10入りを記録し、彼らが国際的な成功への道を切り開く上で非常に重要な一曲となりました。特に、スマッシング・パンプキンズのフロントマンであるビリー・コーガンは、16歳の頃にラジオでこの曲を聴き、U2の熱心なファンになったと語っています。

楽曲誕生の経緯

この楽曲のルーツは、1981年のOctoberツアーのリハーサル中にさかのぼります。ベーシストのアダム・クレイトンが、イギリスのニュー・ロマンティックバンド、Visageの楽曲「Fade To Gray」のベースラインを誤って演奏したことがきっかけで、この曲の基礎となるリフが生まれました。当初、ボーカリストのボノは当時の恋人、アリへ捧げるラブソングとしてこのメロディーに歌詞をつけようと考えていました。しかし、やがてポーランドの自由と民主化運動を牽引した自主管理労働組合「連帯」（のちにポーランド大統領となるレフ・ヴァウェンサが率いた）にインスパイアされた楽曲へと方向転換しました。

ボノはこのテーマに沿った歌詞の完成に難航し、その結果、楽曲がアルバム『WAR』から外される可能性も指摘されました。しかし、最終的に歌詞は完成し、その中の一節「Under a blood red sky」（血のように赤い空の下）は、後のライブアルバムのタイトルとしても使用されています。プロデューサーのスティーヴ・リリーホワイトは、レコーディング中に「Sunday Bloody Sunday」には特別な手応えを感じていたものの、「New Year's Day」には当初ピンときていませんでした。しかし、スタジオに出入りしていた若いインターンが、この曲が流れるたびに強い関心を示すのを見て、楽曲の潜在能力に気づいたと言われています。

レコーディング完了後、1983年1月1日、奇しくも楽曲のテーマとなったポーランドでは戒厳令が解除されました。この偶然の一致に、U2のメンバーは大きな驚きを感じたといいます。

B面曲「Treasure (Whatever Happened to Pete the Chop)」

シングルのB面には「Treasure」という楽曲が収録されていますが、この曲は元々「Pete The Chop」というタイトルでした。このタイトルは、U2のごく初期のマネジメントに関わっていたアンドリュー・ホワイトウェーのニックネームに由来しており、彼からの個人的な依頼を受けて制作された楽曲でした。当時のU2としては珍しいポップなサウンドを持っていたため、マネージャーのポール・マクギネスやアイランド・レコードのスタッフからはヒットの可能性が高いと見込まれ、シングルリリースも提案されました。しかし、バンド自身はこの曲をあまり気に入っておらず、一度はお蔵入りとなりました。

その後、「Treasure」とタイトルを変えて「New Year's Day」のB面に収録されることになりました。その際、バンドがなかなかシングルヒットを出せない状況に苛立ちを募らせていたアイランド・レコードのスタッフが、「Pete The Chop」の行方について口癖のように尋ねていたことから、このフレーズ「Whatever Happened to Pete the Chop？」が副題として付けられました。「Pete the Chop」は初期のライブで数回演奏された記録がありますが、「Treasure」としてライブで演奏されたことは一度もありません。この楽曲はアルバム『WAR』のデラックス・エディションにも収録されています。

ミュージックビデオ

「New Year's Day」のミュージックビデオは、メイアート・エイヴィスが監督を務め、スウェーデンのスキーリゾート地であるサーレンで1982年12月15日と16日の2日間に渡って撮影されました。このビデオでは、厳しい寒さの中、雪景色の中で演奏するバンドの姿や、馬に乗って森を進むシーンが印象的に描かれています。MTVで頻繁に放送され、現在でもU2の代表的なミュージックビデオの一つとして人気があります。

しかし、撮影にはいくつかの裏話があります。特に、メンバーが馬に乗るシーンでは、実際には彼らがうまく馬を乗りこなせなかったこと、そして保険に入っていなかったことから、地元の10代の少女たちが代わりに馬に乗って撮影されました。また、雪原で歌うというビデオのアイデア自体が、エコー&ザ・バニーメンの楽曲「The Cutter」のミュージックビデオに酷似しているという噂が流れ、当時U2に批判的だったエコー&ザ・バニーメンのボーカル、イアン・マッカロクを激怒させたと言われています。

ライブパフォーマンス

「New Year's Day」はU2のライブにおいて非常に重要な楽曲であり、2015年7月23日時点で、演奏された回数はバンドの全楽曲の中でトップ10に入るほどです。ライブでは、ギタリストのジ・エッジが巧みにギターとピアノの両方を演奏しますが、時に演奏ミスが見られることもあります。この曲を演奏する際、彼は80年代にはフェンダー・ストラトキャスターを使用していましたが、90年代以降はギブソン・レスポール・カスタムやギブソン・レスポールを主に使用するようになりました。ちなみに、この楽曲のレコーディングに使用されたギブソン・レスポールは、2007年にハリケーン・カトリーナの被災ミュージシャンを支援するチャリティ団体Music Risingが主催したオークションに出品され、24万ドル（当時のレートで約2850万円）で落札されました。

特に印象的なのは、楽曲のテーマであるポーランドでのライブパフォーマンスです。Vertigoツアー中の2005年7月5日、ポーランドのシレジア競技場での公演では、「New Year's Day」の演奏中、アリーナ席の観客が事前に準備していた赤と白のアイテムを一斉に掲げ、巨大なポーランド国旗を作り上げるパフォーマンスを行いました。これに深く感動したボノは、着ていたジャケットを裏返して裏地の赤を見せ、観客にお辞儀をして感謝と敬意を表しました。この感動的なパフォーマンスは、その後の360度ツアーでのポーランド公演でも再び行われています。

リミックス

楽曲の印象的なピアノパートは、特にクラブミュージック系のアーティストに頻繁にリミックスされています。

フランソワK - 「New Year's Day (USA Remix)」（1983）
このリミックスは、フランス盤シングルのB面や『War』デラックス・エディションに収録されました。これはU2にとって初のリミックス音源です。その背景には、USツアー中に訪れたナイトクラブで、ボノがDJとしてU2の楽曲「Out Of Control」をかけた際にフロアの客が離れていった経験があります。この出来事から、ボノはクラブで踊る若い世代にも響く音楽の必要性を感じ、それがリミックスという形で結実しました。フランソワ・Kは、70年代後半から現在までシーンの第一線で活躍するフランス人DJであり、この他にもU2の「Two Hearts Beat As One」や「Wire」のリミックスを手がけています。

フェリー・コーステン - 「New Year's Day (Ferry Corsten Extended Vocal Mix）」ほか（1999）
オランダの著名なDJ、フェリー・コーステンからのリミックス提案をU2側が快諾した結果、このバージョンはクラブシーンで大ヒットを記録しました。当初、シングル盤としてのリリースも企画されましたが、当時の「政治的」な事情により見送られました。その後、『War』デラックス・エディションに収録される形で正式に陽の目を見ることとなりました。

Musique vs U2 - 「New Year's Dub」（2001）
ムースとニック・ハンソンによるこの企画ユニットは、「New Year's Day」をダブ・リミックスとして発表し、アイルランドで13位、イギリスで15位を記録するなど、各国でスマッシュヒットとなりました。

カバーとサンプリング

「New Year's Day」は、多くのアーティストによってカバーされています。アイルランドのバンドであるAslanもこの曲をカバーしていますが、実はボノはかつて彼らの楽曲を聴いて、自身の設立したマザーレコードからのデビューを見送った経験があります。シンガーソングライターのトーリ・エイモスもライブでこの曲をカバーしています。

また、この楽曲は複数のハウスやテクノ楽曲でサンプリングされています。代表的な例として、Kiss AMC（1989）、Dynamic Base（1993）、With It Guys（1993）、Hyperlogic（1995）、Bacon Popper（1998）などが挙げられます。

評価

「New Year's Day」は、リリース当時から高い評価を受けました。

1983年当時の評価:
ホットプレス誌（アイルランド）読者投票年間ベストアイリッシュシングル 第2位
NME誌 年間ベストシングル50 第47位
ジョン・ピール（DJ）選出 年間ベストソング50 第41位
クリーム誌（アメリカ）年間ベストシングル 第6位
Rockerilla誌（イタリア）年間ベストシングル 第18位

オールタイム評価:
ラジオヴェロニカ（オランダ） オールタイムベスト500 第37位（1989）
Vox誌 世界にショックを与えたレコード100 第90位（1991）
ポール・ウィリアムズ選出 ロックンロールベストシングル100 第89位（1993）
スタジオ・ブリュッセル（ベルギー）視聴者投票 オールタイムベストソング 第31位（1999）
ローリングストーン誌 オールタイムベストソング500 第427位（2004）、第435位（2010）
ロックサウンド誌 プロテストソング10 第7位（2005）
ピッチフォーク・メディア ポストパンク期の優れた楽曲500 選出（2008）
NME誌 ロックを定義する75曲 選出

これらの評価からも、「New Year's Day」が単なるヒット曲に留まらず、音楽史において重要な位置を占める楽曲であることが分かります。

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