ニリンソウ

ニリンソウ（二輪草）

ニリンソウ（学名: Anemone flaccida）は、キンポウゲ科イチリンソウ属に分類される多年草です。春の山野を代表する可憐な花として知られ、山地の林床などに群生する姿が見られます。

名称の由来

ニリンソウの最大の特徴は、1本の茎から2つの花が寄り添うように咲くことです。この様子から「二輪草」という和名が付けられました。地方によっては、フクベラ、コモチバナ、コモチグサ、ガショウソウ、ソバナ、プクサキナ、フクベナ、ヤマソバなど、様々な別名で呼ばれています。

分布と生育環境

ニリンソウは、東アジアの広い範囲に分布しています。具体的には、樺太、朝鮮半島、中国北部・東北地方、ウスリー地方、そして日本です。日本では、北海道から九州まで広く分布し、湿潤な山裾の雑木林の中や林縁、谷川沿いの半日陰となる場所に自生し、群落を作ります。基準標本はサハリンで採取されたものです。

形態と生態

ニリンソウは、草丈が約20cmになる多年草です。根茎は黒色の細長い塊で、ひげ根があります。根茎で増える性質があるため、群落を形成することが多いです。根元から生える葉は深く裂けており、茎の先端には3枚の総苞葉が茎を囲むように付きます。葉身は五角形で3〜5つに深く切れ込みがあり、表面には白い斑点が見られることが多いです。

花期は3〜5月頃で、総苞葉の中心から通常2本の花茎を伸ばし、白い萼片を持つ直径約2cmの花を咲かせます。ただし、1輪や3輪咲くこともあります。結実すると地上部は枯れ、春まで休眠します。

食用としての利用

ニリンソウは、キンポウゲ科の植物としては珍しく食用にできる植物です。特に若葉は山菜として利用され、さっぱりとした淡白な味わいとシャキシャキとした歯ごたえが特徴です。根茎は「地烏（ジウ）」と呼ばれ、漢方薬として利用されます。

食用となるのは、葉、茎、つぼみ、花など地上部全体です。採取時期は、暖地では3〜4月、寒冷地では4〜5月が適しています。アイヌの人々は、冬季の重要な備蓄食料として、5〜6月に採集していました。ニリンソウはトリカブトなどの有毒[[植物]]と混生していることが多いため、採取する際には花を確認しながら1本ずつ間引くように注意が必要です。

山菜として利用する際は、軽く茹でて十分に水にさらしてから、おひたし、和え物、煮浸し、汁の実などにします。茹でて下ごしらえしたものは、塩漬けにして保存することも可能です。花はさっと熱湯にくぐらせて、酢の物、寒天寄せ、椀だねなどにします。ニリンソウ自体にも有毒成分が含まれていますが、加熱することで無毒化されると考えられています。しかし、生のまま食べると下腹部痛を起こすことがあるため、注意が必要です。

なお、同じキンポウゲ科のイチリンソウやサンリンソウは食用にはなりません。

有毒[[植物]]との見分け方

ニリンソウは、若葉の時期には猛毒を持つトリカブトやウマノアシガタ（いずれもキンポウゲ科）の若葉と非常によく似ています。特に花が咲いていない時期には見分けるのが難しく、誤ってトリカブトを口にして中毒死する事故も発生しています。ニリンソウとトリカブトは同じ場所に混生していることも多いため、採取する際には蕾や花を確認することが重要です。ニリンソウは春に白い花を咲かせますが、トリカブトは夏から秋に青紫色の兜のような形の花を咲かせます。

下位分類

ニリンソウには、以下の下位分類があります。

ウスベニニリンソウ (Anemone flaccida f. rosea)
ギンサカズキイチゲ (Anemone flaccida f. semiplena)
ミドリニリンソウ (Anemone flaccida f. viridis)
オトメイチゲ (Anemone flaccida var. tagawae)

その他

ニリンソウは、東京都板橋区の区の花に指定されており、同区の観光キャラクター「りんりんちゃん」はニリンソウの妖精をイメージしています。

また、多くの都道府県で絶滅危惧種に指定されており、その保護が重要視されています。

参考文献

佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本Ⅱ離弁花類』、1982年、平凡社
岩槻秀明『街でよく見かける雑草や野草がよーくわかる本』秀和システム、2006年11月5日。ISBN 4-7980-1485-0。
金田初代、金田洋一郎（写真）『ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方』PHP研究所、2010年9月24日、64 - 65頁。ISBN 978-4-569-79145-6。
高野昭人監修 世界文化社編「にりんそう」『おいしく食べる 山菜・野草』世界文化社〈別冊家庭画報〉、2006年4月20日、16 - 17頁。ISBN 4-418-06111-8。
* 豊国秀夫『日本の高山植物』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、1988年9月。ISBN 4-635-09019-1。

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