ヌナビク

ヌナビクとは

ヌナビク（Nunavik、イヌクティトゥット語: ᓄᓇᕕᒃ）は、カナダ東部、ケベック州の最北部に位置する広大な地域であり、主にイヌイットの人々が暮らす居住地域です。ケベック州北ケベック地方行政区の北半分を占めており、北緯55度線より北に広がるウンガバ半島の大部分を含んでいます。その面積は約44万平方キロメートルにも及び、これは日本の総面積よりも大きい広さです。

この地の名称である「ヌナビク」は、現地の言葉であるイヌクティトゥット語で「生きるための場所」という意味を持っています。歴史的には、1912年まではノースウエスト準州のウンガバ地区の一部でした。

人口と資源

2006年時点でのヌナビクの総人口は約1万1600人ですが、その9割以上をイヌイットの人々が占めています。地域内には複数の村落が点在しており、中でも首府機能を持つクージュアクは最大の集落で、2006年時点の人口は約2100人でした。

ヌナビクには豊富な鉱物資源が眠っていることが知られています。しかし、1975年にカナダ連邦政府、ケベック州政府、そしてイヌイットやクリーの人々の間で締結されたジェームズ湾・北ケベック協定により、この地域での大規模な資源開発には特別な条件が課されています。具体的には、開発を行う鉱業会社は、たとえ州政府の許認可を得たとしても、地域住民、すなわちイヌイットの人々の正式な承認を得る必要があります。これは、開発が環境や伝統的な生活に与える影響が大きいことを考慮した、先住民の権利を保障するための一歩とされています。

自治権獲得への道のり

ジェームズ湾・北ケベック協定を契機に、ヌナビクにおけるイヌイットの自治権拡大に向けた動きが本格化しました。1978年には、同協定に基づき、地域の大半を管轄する「カティビク地方政府」（Kativik Regional Government）が設立されました。現在、14の北方村落がこの地方政府の管轄下にあり、その運営資金はケベック州政府が50%、カナダ連邦政府が25%を負担する形で支えられています。

同じく1978年の協定に基づき、ヌナビクのイヌイットの人々の権益を代表する正式な機関として、「マキヴィク社」（Makivik Corporation）も設立されました。クージュアクに本社を置くマキヴィク社は、協定に基づく土地や資源に関する権利の管理、経済開発の推進などを担うとともに、イヌイットの自治権のさらなる拡大を積極的に主張しています。彼らは、隣接するヌナブト準州に属する島々の資源利用権についても交渉を行うなど、活動範囲は多岐にわたります。さらに、カナダの他の先住民地域と同様に、ヌナブト準州に匹敵するような、より高度な自治権を持つ「準州」（Territory）としての地位獲得をも視野に入れた要求を行っています。

近年、ヌナビクにおける統治形態をさらに発展させるため、カナダ連邦政府、ケベック州政府、そしてヌナビクの代表者の間で、「ヌナビク地方政府」の設立に向けた議論が重ねられてきました。この新しい地方政府の構想では、司法管轄権は既存の政府機関が維持するものの、独自の内閣と議会を持ち、教育や保健といった地域に密着した公共サービスの運営に責任を持つことが想定されていました。この地方政府は、特定の民族に限定されるものではなく、ヌナビクに居住するすべての市民がその運営に参加する権利を持つとされていました。設立が実現すれば、現在のカティビク地方政府、カティビク教育委員会、ヌナビク保健社会サービス委員会などが、この新地方政府に統合・移行される計画でした。また、ケベック州政府は、人口は少ないながらもヌナビク地域を代表する連邦議会議席を新たに設けるべきだと主張していました。

しかし、この「ヌナビク地方政府」の設立案の是非を問う住民投票が2011年4月に行われた結果、現状の案に対する反対票が約7割を占め、賛成多数には至らず否決されました。これにより、ヌナビクの自治権拡大に向けた制度改革は一時的に停滞しましたが、地域の人々による自決とガバナンス強化への模索は現在も続いています。

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