ヌマガメ科
ヌマガメ科（Emydidae）
爬虫綱カメ目に属するヌマガメ科（Emydidae）は、カメ類の中でも特に多様なグループの一つです。この科を代表する属はヨーロッパヌマガメ属（Emys）です。
分布
ヌマガメ科のカメは、主に北アメリカ大陸に広範に分布しています。加えて、南アメリカ大陸の一部、ユーラシア大陸の西部、そしてアフリカ大陸の北部にも生息域を広げています。さらに、アメリカ合衆国のプエルトリコ、イギリス領のケイマン諸島、キューバ、ジャマイカ、ドミニカ共和国、ハイチ、バハマのグレートイナグア島といったカリブ海の島々にも確認されています。
形態
ヌマガメ科の種は、体サイズに大きなばらつきがあります。最も大型化する種はチュウベイクジャクガメ（Trachemys venusta）で、最大で甲長60センチメートルに達するとされる記録がありますが、甲長50センチメートルとする文献や、別の種であるメキシコカワガメとの混同を指摘する説もあります。対照的に、最小種であるミューレンバーグイシガメ（Glyptemys muhlenbergi）は、成長しても甲長がわずか11.5センチメートル程度にしかなりません。
分類
本項の分類および和名は、中井(2021)を参考にしています。ヌマガメ科は、大きく二つの亜科に分類されます。
ヌマガメ亜科 (Emydinae)
この亜科には、以下のような属が含まれます。
- - ブチイシガメ属 (Actinemys)：以前は1種とされていましたが、現在は2種に分けられています。
- ミナミブチイシガメ (A. pallida)
- - キボシイシガメ属 (Clemmys)
- - ブランディングガメ属 (Emydoidea)：ヨーロッパヌマガメ属に含められることもあります。
- - ヨーロッパヌマガメ属 (Emys)
- シチリアヌマガメ (E. trinacris)
- - モリイシガメ属 (Glyptemys)
- ミューレンバーグイシガメ (G. muhlenbergi)
- - アメリカハコガメ属 (Terrapene)：多くの種が含まれます。
アミメガメ亜科 (Deirochelyinae)
この亜科には、以下のような属が含まれます。
- - ニシキガメ属 (Chrysemys)
- - アミメガメ属 (Deirochelys)
- - チズガメ属 (Graptemys)：多様な種を含みます。
- - キスイガメ属 (Malaclemys)
- - クーターガメ属 (Pseudemys)
- - アカミミガメ属 (Trachemys)：最も種数の多い属の一つです。
生態
ヌマガメ科に属する種の多くは、河川や湖、池沼といった淡水環境で生活する水棲です。しかし、草原や森林、湿地に生息する陸棲あるいは半陸棲の種も存在します。さらに、キスイガメのように海水と淡水が混ざり合う汽水域に適応した種も見られます。
食性は多様で、多くの種が雑食性を示します。魚類、両生類、昆虫、甲殻類、貝類、環形動物などの動物質の餌に加え、果実や水草なども食べます。繁殖形態は卵生で、土中に産卵します。特異な例として、フロリダアカハラガメ（Pseudemys nelsoni）は、アメリカアリゲーターの巣に卵を産み付ける行動が観察されています。
人間との関係
ヌマガメ科のカメは、古くから人間と関わりを持ってきました。アミメガメ、カロリナハコガメ、キスイガメなどは、かつて食用として利用された歴史があります。キスイガメの学名の一部である「terrapin」は、アメリカ先住民の言葉で「食用ガメ」を意味し、アメリカハコガメ属の属名やジャマイカスライダーの種小名にも使用されています。
一方で、開発による生息地の破壊や、ペットとしての需要に伴う乱獲などにより、生息数が減少傾向にある種も少なくありません。ペットとして飼育されることも多く、日本にも多数が輸入されています。特に、アカミミガメの亜種であるミシシッピアカミミガメは、大規模な養殖が行われ、世界中に広く流通しました。しかし、飼育個体が遺棄されることで、各地で定着し、在来の生態系に深刻な影響を及ぼすことが懸念されています。このため、日本では外来生物法に基づき、緯度の近い北米に生息し、ペットとして流通量の多かったアカミミガメ、クーターガメ属、そしてチズガメ属の一部の種（ミシシッピチズガメ、フトマユチズガメ、ニセチズガメ）が要注意外来生物に指定され、管理の対象となっています。これは、外来種が引き起こす生態系への悪影響を防ぐための重要な措置です。
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