ネァイリング

ネァイリング：英雄ベーオウルフの剣

ネァイリング（Næġling）は、古英語の叙事詩『ベーオウルフ』に登場する英雄ベーオウルフが所有する名剣の一つです。その名は古英語の「næġl」（爪）に由来し、その強靭さ、あるいは形状を暗示していると考えられています。類似した名前を持つ剣として、『シズレクのサガ』に登場するナーゲルリングが挙げられます。

名剣としての描写と最期

ネァイリングは作中で「鋭い」「光り輝く」「力強い」といった言葉で賞賛され、また「素晴らしいいにしえの剣」「いにしえの家宝」といった表現で、その由緒正しさが強調されています。しかし、ベーオウルフの最期となる竜との戦いにおいて、ネァイリングは無残にも二つに折れてしまいます。この剣の破損について、作者は竜の力ではなく、ベーオウルフ自身の並外れた膂力が原因であると説明しています。

折れた剣をめぐる議論

ベーオウルフの腕力が強すぎたために剣が折れたという説明に対し、研究者のストップフォード・ブルックは異議を唱えています。彼は、ベーオウルフが生涯この剣で戦ってきたことを考えると、英雄の力によって剣が折れるというのは不自然だと指摘し、後世の編集者によって物語が改変された可能性を示唆しました。

英雄の剣が肝心な時に折れてしまうというモチーフは、他のゲルマン文学にも見られます。『ヴォルスンガ・サガ』や『デンマーク人の事績』にも同様の描写が存在し、特に『蛇舌のグンラウグのサガ』はネァイリングとの類似性が指摘されています。これらの作品では、剣を折ったのは敵ではなく、英雄自身であることが強調されています。また、ゲルマン文学では、優れた剣を「古い」「古の」「先祖伝来の」といった言葉で表現する伝統があります。ネァイリングも「古き灰色の」と描写されており、その古さが強調されています。

入手経緯

ネァイリングの名は、ベーオウルフと竜との戦いの場面で初めて語られます。叙事詩では、人物が初めて登場する際に名前を伏せておき、後から明かすという手法が用いられることがありますが、ネァイリングも同様に、竜との戦い以前に登場していたにもかかわらず、名前が明かされなかった可能性があります。




ネァイリングの入手経緯については、いくつかの説が存在します。

ダイフレヴンの剣説：
ベーオウルフがフーグ族の戦士ダイフレヴンを討ち取った際、彼の剣を奪いました。この剣がネァイリングである可能性があります。ダイフレヴンはおそらくベーオウルフの母方の叔父であるヒイェラーク王を殺害した人物です。ベーオウルフはダイフレヴンを掴み殺し、彼の剣を奪いました。

フレーゼル王の遺品説：
ヒイェラーク王がベーオウルフに与えた、フレーゼル王の遺品の剣がネァイリングである可能性があります。イェーアトの地では、この剣を超えるものはないと言われていました。

まとめ

ネァイリングは、英雄ベーオウルフの武勲を支えた名剣でありながら、その最期は脆く、様々な議論を呼んでいます。その名は物語の中で象徴的な意味を持ち、英雄の運命、そして物語の深みを物語る存在と言えるでしょう。

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