シズレクのサガ

シズレクのサガ：英雄ディートリヒの伝説

『シズレクのサガ』（古ノルド語: Þiðrekssaga）は、歴史上の人物である東ゴート王テオドリックをモデルとした英雄、ディートリヒ・フォン・ベルン（古ノルド語読みではシズレク）の冒険を描いた「騎士のサガ」です。「ベルン」はドイツの都市ではなく、北イタリアのヴェローナを指します。このサガは13世紀半ばにノルウェーで書き留められ、中世スカンディナヴィアで広く読まれました。

起源

ノルウェー語版の序文には、この物語が「ドイツ人たちの物語」と「古いドイツの詩」に基づいて書かれたと記されています。これは、ベルゲンのハンザ商人たちが伝えた物語が基になっていると考えられています。また、『シズレクのサガ』のスウェーデン語版は、文学に関心のあったカール8世の命令によって編集されたと言われています。

ドイツでは、ディートリヒと仲間たちの物語は、他の伝説と融合しながら発展しました。例えば、東ゴート王国起源のエルマナリク王の伝説や、フランク人・ブルグント族の伝説である『ニーベルンゲンの歌』などです。ディートリヒ伝説は、『ニーベルンゲンの歌』などでサクソン人の王エッツェルとフン族の王アッティラが同一視される原因にもなりました。エルマナリクの伝説と『ニーベルンゲンの歌』は、それぞれがディートリヒ伝説と融合する前にスカンディナヴィアに伝わっており、当時はディートリヒとこれらの伝説は別々に記述され、相互の関係性も希薄でした。

ディートリヒ伝説の最も古い痕跡は、9世紀の『ヒルデブラントの歌』に見られます。この物語では、ディートリヒはヒルデブラントの息子であるヒルティブラントやハドゥブランドの親友にして助言者として登場します。12世紀になると『ヒルデブラントの歌』は再編集され、音楽が加えられたと考えられています。この音楽は現代にも残っています。『ヒルデブラントの歌』の次に古いディートリヒ伝説の痕跡は、北ドイツのバラッドに見られます。このバラッドでは、ディートリヒがフランクの王エルマリクと戦う様子が描かれています。当時、ディートリヒに関する多くのバラッドや歌が作られ、『シズレクのサガ』の著者は、サクソン人の子供たちは皆ディートリヒとその仲間たちを知っていると記述しています。

南ドイツでは、歌物語やバラッドが長編化し、特に『ニーベルンゲンの歌』やシグルズの物語と融合しました。そのため、作中ではシグルズを殺した者たちがエッツェルによって破滅していく過程で、ディートリヒが重要な役割を担っています。また、古高ドイツ語でディートリヒの物語群が数多く書かれました。

12世紀になると、ディートリヒの歌物語はスカンディナヴィアに伝わり、特にスウェーデンやデンマークにおいて、シグルズやその他の北方の英雄たちの物語と混ざり合いました。

13世紀半ば、ノルウェー人またはアイスランド人は「ドイツ人たちの物語」を組み込み、スカンディナヴィアの伝説にシグルズなどを登場させました。これによって生まれたのが『シズレクのサガ』です。ドイツでも、『シズレクのサガ』と類似しているものの、完成度では劣る作品が作られています。

伝説の影響

『シズレクのサガ』はスウェーデンの歴史書に強い影響を与えました。これは、『シズレクのサガ』がヴァイキングの国とスウェーデン人、そしてその王族を同一視していたためです。ただし、16世紀にはこの点に疑義を唱える学者も現れました。しかし、この伝説は15世紀を起源とし、『ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ』とも融合し、ヨハンネス・マグヌスが歴史書『ゴート人とスヴェア人の王国の事績に関する歴史』（1554年出版）の編纂中に創作した、スウェーデン王国の建国神話として発展しました。そして、「古ゴート主義」として理想化され、17世紀にはヴァーサ王朝のもとで政治的理念として利用されました。

リヒャルト・ワーグナーはオペラ『ニーベルングの指環』で、『シズレクのサガ』の要素を取り入れています。

『シズレクのサガ』は、中世の英雄物語がどのように伝播し、変容していったのかを示す貴重な資料と言えるでしょう。

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