ネイサン・アルトシラー・コート

ネイサン・アルトシラー・コート

ネイサン・アルトシラー・コート（Nathan Altshiller Court）は、1881年1月22日にポーランド立憲王国（当時）のワルシャワで生を受け、1968年7月20日に87歳でその生涯を終えた、ポーランド系アメリカ人の著名な数学者です。特に幾何学の分野で多大な貢献をし、教育者としても広く知られています。

ワルシャワでナタン・アルツィラー（Natan Altszyller）として生まれた彼は、9人兄弟の長男でした。地元の小中学校で学んだ後、高等教育を望みましたが、当時のポーランドにおける反ユダヤ主義の影響により、国内での大学進学を断念せざるを得ませんでした。この困難を乗り越えるため、1907年にはベルギーへと渡ります。リエージュ大学とゲント大学で数学の研究に没頭し、懸命な努力の末、1911年に博士号（D.Sc.）を取得しました。

博士号取得後まもなく、コートは新たな活躍の場を求めてアメリカ合衆国へ移住しました。ニューヨークに到着した彼は、名前を英語風にネイサン・アルトシラー（Nathan Altshiller）と改めます。渡米当初は英語を読むことすら困難な状況でしたが、その卓越した数学的才能と情熱はすぐに認められ、わずか数週間のうちにコロンビア大学で高等数学の講師の職を得るという驚くべきスタートを切りました。次の学期には数学の正規講師として採用され、昼間は大学院で数学と天文学の研究を深めながら、夜間に授業を受け持つという多忙な日々を送りました。1912年には、ワルシャワ時代からの旧知であったソフィー・ラビッチ（Sophie Ravitch）と結婚しています。

ニューヨークを離れた後、コートは数年間にわたり国内のいくつかの大学で教鞭を執りました。1913年から2年間はワシントン大学で教え、この間に息子アーノルド（Arnold）が誕生しました（1914年）。その後、さらに2年間はコロラド大学で教育活動を続けました。

1916年、彼のキャリアにおける最も重要な転機が訪れます。オクラホマ州ノーマンにあるオクラホマ大学に移籍し、以降、彼は教職からの引退まで、その人生の大半をこの地で過ごすことになります。1919年にはアメリカ合衆国の市民権を取得し、この機会に姓をコート（Court）、ミドルネームをアルトシラー（Altshiller）とし、現在の正式名であるネイサン・アルトシラー・コートとなりました。

オクラホマ大学での安定した環境の中で、コートは教育者および研究者として精力的に活動を展開しました。1925年には、大学レベルの総合幾何学を網羅した彼の代表的な教科書である『College Geometry: An Introduction to the Modern Geometry of the Triangle and the Circle』の初版が出版されました。この著作は非常に評判が高く、幾何学教育における古典的な名著となります。1935年には、空間幾何学に関する教科書『Modern Pure Solid Geometry』を発表し、これと同時にオクラホマ大学の正教授に昇進しました。

彼は教育活動に加え、研究者としても非常に活発でした。生涯に100を超える学術論文を発表し、特に数学雑誌『The American Mathematical Monthly』の問題提起欄には頻繁に寄稿し、数学コミュニティに貢献しました。『College Geometry』は初版出版後、25年間もの間、ほとんど修正されることなく版を重ねましたが、1952年に改訂版が出版されました。教育現場での支持の高さが伺えます。

1951年、長年にわたる教育活動を終え、オクラホマ大学を退職しました。退職後も執筆活動は続けられ、1958年には数学に関する随筆集『Mathematics in Fun and in Earnest』が出版されています。

ネイサン・アルトシラー・コートは、1968年7月20日、オクラホマ州ノーマンにて心臓発作のため87歳で逝去しました。彼の幾何学教育への貢献は大きく、オクラホマ大学数学科では、優れた数学専攻の学部生を称えるネイサン・A・コート賞が設立され、その功績は今なお称えられています。

もう一度検索