ネクタネボ2世

ネクタネボ2世（Nectanebo II）

ネクタネボ2世は、紀元前360年から紀元前342年にかけて古代エジプトを統治した、第30王朝最後のファラオです。彼はまた、プトレマイオス朝以前における、民族的なエジプト人としては最後の支配者でした。彼の治世は、約60年にわたる古代エジプトの独立王朝の最後を飾る時代となります。

彼の統治下、エジプトは比較的安定した状態を保ち、一定の繁栄を享受したとされています。ネクタネボ2世は、父である先代ファラオのネクタネボ1世の跡を継ぎ、エジプト古来の多神教信仰を篤く尊びました。国内各地の多くの神々に厚い信仰を寄せ、その治績を示す痕跡は、現在も100を超えるエジプトの遺跡に残されています。

彼は父王をも凌ぐほどの規模で、神殿の建設や既存施設の修復といった公共事業を積極的に行いました。とりわけ、ナイル川デルタ地帯にあるイシス女神を祀る巨大な神殿、いわゆるイセウムの造営に着手したことは特筆されます。こうした建築活動に加え、この時代の芸術家たちは独自の様式を確立し、後のプトレマイオス朝時代のレリーフ芸術にも顕著な影響を与えたと考えられています。

軍事面においては、ネクタネボ2世は当時オリエントを支配していた強大なアケメネス朝ペルシャによるエジプト再征服の試みに対し、数年にわたり巧みに抵抗し、エジプトの独立を守り抜くことに成功していました。

しかし、その独立も長くは続きませんでした。紀元前343年、事態は急変します。かつて彼に仕えていた、ロドス島出身のギリシャ人傭兵隊長メントルがペルシャ側に寝返るという痛恨の裏切りに遭ったのです。この裏切りは、ペルシャ軍がエジプト侵攻を成功させる上で決定的な要因の一つとなりました。

ネクタネボ2世は、エジプト北東部の重要な要衝であるペルシウムにおいて、アケメネス朝ペルシャの軍隊、そしてメントル率いるギリシャ傭兵部隊から成る連合軍と対峙しました。このペルシウムの戦いにおいて、エジプト軍は決定的な敗北を喫してしまいます。

この敗戦により、エジプトの防衛線は崩壊しました。ペルシャ軍は容易にエジプトへと侵攻し、まずは首都メンフィスを占領しました。その後、彼らは瞬く間にエジプト全土を制圧し、エジプトは再びアケメネス朝の支配下に組み込まれることとなりました。当時のペルシャ王はアルタクセルクセス3世であり、彼はエジプトを再び自らの帝国の属州としたのです。

敗れたネクタネボ2世自身は、国土の南部、すなわち上エジプトへと逃れたと伝えられています。一部の史料によれば、彼はその地でしばらくの間、抵抗勢力を維持していたとも見られます。しかし、ペルシャの支配がエジプト全土に及ぶ中で、彼の勢力も長くは続かなかったようです。ネクタネボ2世のその後の具体的な消息については、確かな記録がなく、歴史の闇の中に消えたままです。

こうして、ネクタネボ2世の治世をもって、紀元前3000年頃から続いてきた古代エジプトの独立したファラオによる統治は幕を閉じました。彼の治世は、文化や芸術の振興といった側面で一定の成果を上げたものの、最終的には外敵からの独立を守りきれず、エジプト史における一つの時代の終焉を告げることとなりました。彼の失脚後、エジプトはペルシャの支配を経て、最終的にはアレクサンドロス大王による征服、そしてプトレマイオス朝の支配へと引き継がれていきます。

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