アルタクセルクセス3世

アルタクセルクセス3世：栄光と陰謀のペルシア皇帝

紀元前4世紀、アケメネス朝ペルシア帝国は、建国者キュロス2世から数えておよそ200年もの歴史を刻んできました。その第10代皇帝として君臨したのが、アルタクセルクセス3世です。紀元前359年、父アルタクセルクセス2世の死後、王位を継承した彼は、並外れた軍事才能と冷酷な権力闘争の両方で知られる存在でした。

若い頃から軍事指揮官として活躍し、シリアでの反乱鎮圧に大きく貢献したアルタクセルクセス3世は、即位と同時に潜在的な脅威となる兄弟たちを全て排除しました。この冷酷な決断は、彼の治世を特徴づける強大な権力と残忍性の片鱗を示しています。

彼の治世は、軍事的な成功と内紛が複雑に絡み合ったものでした。即位後、彼はカスピ海沿岸のカドゥシオイ人への軍事行動を行い、勝利を収めます。しかし、彼の真の試練は、帝国西部で勃発したサトラップ（太守）たちの反乱でした。この反乱はエジプトにまで広がり、かつてペルシアの支配下にあったエジプト、シリア、フェニキア、キプロスが独立状態にありましたが、彼は粘り強く反乱を鎮圧していきます。紀元前348年にはシリアを、紀元前342年にはエジプトをペルシアの支配下に再び組み込みました。

これらの軍事的な成功は、ギリシア諸国、特に台頭しつつあったマケドニア[[王国]]に大きな影響を与えました。マケドニア王ピリッポス2世（アレクサンドロス大王の父）でさえ、アルタクセルクセス3世の強大な軍事力の前では、ペルシアとの協調関係を模索せざるを得ませんでした。アルタクセルクセス3世の強大な軍事力は、周辺諸国の勢力バランスに大きな影響を与え、ギリシア諸国がペルシアへの侵攻を慎重に計画せざるを得ない状況を創り出したのです。

しかし、彼の権力と栄光は長くは続きませんでした。紀元前338年末、アルタクセルクセス3世は、彼の信頼厚かった宦官にして大臣であるバゴアスによって、息子たちと共に毒殺されました。ペルセポリスの墓所に埋葬された彼の死は、アケメネス朝ペルシア帝国の衰退を象徴する出来事となりました。バゴアスはアルタクセルクセス3世の息子、アルセスを傀儡として皇帝に擁立しましたが、アルセスもまたバゴアスによって間もなく毒殺されました。このバゴアスによる暗殺劇は、アケメネス朝後期の混乱と腐敗を象徴する出来事として歴史に刻まれました。

アルタクセルクセス3世という名は、古代ペルシア語の「アルタクシャサ（Arta-xšassa-）」をギリシア語に訳したものです。これは「天則に属する国の持ち主」を意味する言葉であり、彼の権力と地位を象徴する名前と言えるでしょう。しばしば、クセルクセスという名と混同されますが、両者は異なる意味を持つ名前です。

アルタクセルクセス3世には、アルセスという息子と、後にマケドニアのアレクサンドロス大王の妃となるパリュサティス2世という娘がいました。彼の子孫は、帝国の運命に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

アルタクセルクセス3世の生涯は、軍事力と権力闘争、栄光と悲劇が複雑に絡み合ったドラマでした。彼の治世は、アケメネス朝ペルシア帝国の最後の輝きと、その後の衰退への転換期を示す重要な時代でした。彼の物語は、古代ペルシアの歴史における重要な一章であり、これからも歴史家たちの研究対象として、長く語り継がれていくことでしょう。

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