ネセバル

ブルガリアの古都ネセバル：歴史と美しさが織りなす世界遺産

ネセバル（またはネセブル）は、ブルガリアのブルガス州に位置する、歴史ある都市であり、美しい海岸沿いのリゾート地として知られています。その起源は古く、トラキア人によってメネブリアという集落が築かれた紀元前1千年紀に遡ります。その後、ギリシャの植民地となり、メセンブリアと呼ばれるようになりました。3000年以上の長きにわたり、様々な文明の交差点として繁栄し、現在ではその豊かな歴史を物語る都市博物館として、世界中の人々を魅了しています。

黒海の宝石：ネセバルの魅力

ネセバルは、黒海沿岸における有数の観光地であり、リゾート地としても人気があります。周辺には多くのリゾート拠点が存在し、特に町のすぐ北に位置するサニービーチは、最大規模を誇ります。細長い地峡で本土と繋がる半島に位置し、その地理的特性から、様々な文明の征服を免れてきました。多様な歴史的建造物が保存されており、1983年にはユネスコの世界遺産に登録されました。

波乱の歴史：ネセバルの歩み

古代

紀元前1千年紀にトラキア人の集落メナブリアとして誕生し、紀元前6世紀初頭にはメガラからのドーリア人によってギリシャ植民地となりました。その後、重要な交易拠点として発展し、アポロニア（現在のソゾポル）と競い合いました。ヘレニズム時代の遺跡としては、アクロポリス、アポロン神殿、アゴラなどが挙げられます。紀元前5世紀からは青銅貨や銀貨が、紀元前3世紀からは金貨が鋳造されるようになりました。

ローマ帝国・東ローマ帝国時代

紀元前71年にローマ帝国の支配下に入りますが、独自の貨幣鋳造権など、以前からの特権は維持されました。5世紀以降の東ローマ帝国時代には、重要な要塞都市として機能し、東ローマ帝国と第一次ブルガリア帝国の間で激しい戦闘が繰り広げられました。812年にはブルガリア帝国のクルムによってブルガリアの支配下に入りますが、2週間の包囲の末に東ローマ帝国に奪還されました。864年にはブルガリア皇帝シメオン1世によって再び征服され、ブルガリア領となりました。

第二次ブルガリア帝国・オスマン帝国時代

第二次ブルガリア帝国の時代も、ネセバルはブルガリアと東ローマ帝国の間で争奪戦が繰り広げられました。イヴァン・アレクサンダル帝の治世下で繁栄を謳歌しましたが、サヴォイア伯アメデーオ6世率いる十字軍によって征服されました。1366年には東ローマ帝国の支配下に戻ります。11世紀以降には、スラヴ語名であるネセバル（またはメセバル）という名称が用いられるようになりました。

中世の遺産

中世の建造物としては、5世紀から6世紀にかけて建てられた「古主教区」（聖ソフィア聖堂）、10世紀の聖堂（生神女聖堂）、11世紀の「新主教区」（聖ステファン聖堂）、聖パラスケヴァ聖堂、聖テオドレ聖堂、大天使ミハイル・ガウリール聖堂、聖ヨハネ・アリトゥルゲトス教会などが現存しています。

1453年にオスマン帝国の支配下に入ると、ネセバルは衰退の一途を辿りますが、歴史的遺産は保護されました。19世紀には、ブルガリア黒海沿岸部特有の東ルメリア様式の木造家屋が建てられ、街の景観に独特の趣を添えました。1878年のブルガリア解放後は、東ルメリア自治州の一部となり、1886年にブルガリアに編入されました。

19世紀末には、ギリシャ人の漁民やワイン生産者が暮らす小さな村でしたが、20世紀に入るとブルガリアの沿岸リゾート地として開発が進められました。1925年の住民交換によってギリシャ人が追放された後、新市街が建設され、歴史的な地区は修復されました。

聖堂の街：ネセバルの宗教建築

ネセバルは、その面積あたりの聖堂の数が非常に多いことで知られています。数多くの聖堂が立ち並び、その多様性は特筆に値します。

古主教区/聖ソフィア聖堂: 5世紀-6世紀
生神女エレウサ聖堂: 6世紀
前駆授洗イオアン聖堂: 11世紀
新主教区/聖ステファン聖堂: 11世紀（16世紀-18世紀に修復）
聖テオドレ聖堂: 13世紀
聖パラスケヴァ聖堂: 13世紀-14世紀
大天使ミハイル・ガウリール聖堂: 13世紀-14世紀
全能者ハリストス聖堂: 13世紀-14世紀
聖ヨハネ・アリトゥルゲトス教会: 14世紀
聖スパス聖堂: 17世紀
聖クリメント聖堂: 17世紀

これらの聖堂群は、東ローマ帝国時代、ブルガリア帝国時代、オスマン帝国時代の様々な時期に建てられ、正教会の重要な建築遺跡として、初期キリスト教様式から中世のクロス・ドーム様式への変遷を辿ることができます。

世界遺産としての価値

ネセバルの古代都市は、以下の世界遺産登録基準を満たし、その価値が認められました。

(iii) 現存する、または消滅した文化的伝統または文明の、唯一の、または少なくとも稀な証拠である。
* (iv) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積、または景観の優れた例である。

ネセバルは、古代から中世にかけての様々な文化が融合し、独自の景観を形成してきた貴重な場所であり、その歴史的、文化的価値は世界的に認められています。

現在のネセバル

ネセバルは、ブルガス州ネセバル基礎自治体の中心地であり、周辺にはSveti Vlasやオブゾルといった町や、バニャ、Gyulyovtsaなどの村が存在します。古代都市としての魅力に加え、近代的なリゾート地としての機能も兼ね備え、多くの観光客が訪れる人気のスポットとなっています。

ネセバルは、その長い歴史と美しい景観が織りなす独特の魅力を持つ都市です。古代の遺跡、中世の教会、そして美しい海岸線が調和し、訪れる人々を魅了し続けています。

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