ネットワーク中心の戦い

ネットワーク中心の戦い (NCW)

ネットワーク中心の戦い（Network-Centric Warfare、略称NCW）は、アーサー・セブロウスキーとジョン・ガルストカが考案した革新的な軍事コンセプトです。この戦略は、高度な情報ネットワークを活用し、情報伝達と共有を迅速化することで、意思決定のスピードを向上させ、戦力の運用を効率的に行うことを目指しています。特に、ネットワーク中心コンピューティング（NCC）の考え方を軍事用C4Iシステムに取り入れることで、大きな変化をもたらしました。イギリス軍でも、ネットワークを活用した能力（NEC）が同様の目的のために研究されています。

概要

NCWの基本理念は、センサー、意思決定、攻撃機能をネットワークで連携させることで、戦闘力を飛躍的に向上させることにあります。セブロウスキーは、NCWの特徴を「地理的に分散した兵力を使い、指揮官の意図に基づく戦略、作戦や戦術的目標を達成するためには、高度な共有戦闘空間認識を実現する必要がある」と強調しています。この理念を具体的に実現するためには、以下の3点を重視しています。

1. 情勢認識の共有: C4Iシステムを通じて共通の戦術状況図を提供し、全ての部隊が一堂に戦場の情勢を把握できるようにします。
2. 自己同期の促進: 下級指揮官や兵士に権限を与え、自主的に意思決定や行動が取れるようにしました。
3. 迅速な指揮: 従来の逐次的な意思決定プロセスから脱却し、迅速に判断を下せる仕組みを作ります。

これらの要素を達成することで、NCWは以下の3つの利点をもたらします。
1. 作戦の展開速度向上
2. 戦力の増強
3. 戦場での残存性の向上

このように、分散配置したユニットがネットワークでつながることで、高度な情報共有が実現し、敵の意図を把握する能力が向上します。また、地理的に離れたユニット同士でも情勢を共有でき、各組織の末端まで一定の意思決定権が委譲されることで、迅速な行動が可能になります。NCWは本質的には、C4Iシステムを支持基盤としながら展開する機略戦ともいえます。

NCWの変革性

海上自衛隊のシステム担当者であった大熊康之氏は、NCWの革新的な要素として「戦闘力の枠組みの転換」と「ボトムアップ / 自己同期」の二点を指摘しています。

戦闘力の枠組みの転換

NCWにおける革新は、グリッド・コンピューティングの概念を採り入れた点にあります。従来の「プラットフォーム中心の戦い（PCW）」では、戦闘力は各個のプラットフォームに依存していましたが、NCWでは全てのプラットフォームが情報系、センサー系、交戦系のグリッドに再配置されるという概念の転換が行われました。これにより、各部隊が相互に作用しあう新たな戦闘力の枠組みが形成されます。

• - 情報系グリッド: 各種C4Iシステムを通じて情報が流通する基盤。
• - センサー系グリッド: 様々なプラットフォームが持つセンサーが連携し、情報を集約。
• - 交戦系グリッド: 武器とその運用ソフトウェアが相互に作用し続けます。

ボトムアップ / 自己同期

NCWの第二の革新は、意思決定権の委譲と自己同期です。的確な交戦規定を設定し、下級指揮官に意思決定の権限を委譲して階層を削減し、指揮構造をフラット化します。これにより、全ての指揮官が情勢認識を共有し、自発的に行動が取れるようになります。自己同期を活用することで、従来の逐次的な意思決定に依存せず、迅速な対応が可能となり、実質的な戦闘力の向上が実現します。

NCWの導入

アメリカ海軍は、艦隊戦闘実験を通じてNCWと従来のPCWの効果を比較し、結果として意思決定の平均時間が43分から23分に短縮され、任務遂行にかかる時間は50%減少しました。この成果を受け、2003年11月にNCWコンセプトの導入が承認され、アメリカ全軍に広がることが決定されました。ただし、このコンセプトの実装には教育やシステム整備が必要であり、段階的に進められています。最終的には2030年を目指して完全な実用化を目指します。

NCWは、次世代の軍事戦略としてその実用性が証明されつつあり、我々の戦争のあり方を大きく変える可能性を秘めています。

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