ネパールの国章

ネパールの国章は、長きにわたる内戦（1996年〜2006年）を経て、和平が訪れた時期に新たな時代のシンボルとして導入されました。それまでのネパール王国の国章に代わり、2006年12月30日に公布されたこの新しい紋章は、ネパールの自然、文化、そして国民の理念を表現しています。

現行国章のデザインとその象徴

現在のネパール国章の中心には、ネパールの壮大な景観と国民の結束を象徴するさまざまな要素が組み合わされています。

紋章の最上部には、ネパールの独自性が光る二等辺三角形の国旗が掲げられています。その周囲を彩るのは、ネパールの国花である情熱的な赤いシャクナゲの鮮やかな花輪です。この花輪は、国の自然美と生命力を象徴しています。

花輪の内側には、世界の最高峰であるサガルマータ（エベレスト）の雄大な姿が描かれ、ネパールの地理的な特徴と国民の誇りを示しています。その足元には、緑豊かな丘陵地帯が山間部を、そして広大な黄色の野が肥沃な平野部であるテライ地方を表しており、ネパールの多様な地形が表現されています。

さらに、中央には手を取り合う男性と女性の姿が描かれ、これはネパール社会における男女平等の理念を力強く象徴しています。これらの要素を包み込むように、ネパール全土の地理的な輪郭を示す白いシルエットが配置されており、国家の一体性を示唆しています。

国の標語に込められた思い

国章の下部には、ネパールの国家的な標語が記された赤い巻物があります。サンスクリット語で「जननी जन्मभूमिश्च स्वर्गादपी गरीयसी（jananī janmabhūmiśca svargādapi garīyasī）」と記されたこの標語は、「母と母国は天国より素晴らしい」という意味を持ち、自国への深い愛情と敬意を表しています。この言葉は、叙事詩『ラーマーヤナ』の一節から採られたと一般に信じられていますが、その由来については完全には確認されていません。

2020年の修正

2現行の国章は、2020年6月13日に一部修正されました。この修正は、インドとの間で領土問題となっているネパール北西部のカラパニ地域およびリプレク峠を含むように、国章内のネパール国土の地図を書き加えるというものでした。これは、2020年5月18日に政府が新たな地図の採用を決定したことに伴うものであり、国土の範囲に関するネパールの立場を示すものです。

ネパール王国の旧国章

現行の国章が制定されるまで、ネパールでは異なるデザインの国章が使用されていました。1920年代には三角形の盾の中にヒマラヤやシヴァ神を描いた意匠が見られましたが、1962年12月16日の新憲法制定時にデザインが一新され、それが2006年まで使われました。

1962年版の国章には、国の動物である白い牛と国鳥である緑のニジキジが、白いヒマラヤ山脈の麓の川辺に描かれていました。紋章の左右には、太陽と三日月、そして伝統的な民族衣装をまといククリと弓を持つグルカ兵と、洋装で小銃を持ったグルカ兵が配されていました。上部には交差する2本のネパールの国旗やククリ、聖人ゴラクナートの足型、そして王冠が描かれ、王制時代の象徴が強く打ち出されていました。しかし、周囲をシャクナゲの花輪が囲んでいる点や、下部に「母と母国は天国より素晴らしい」という標語が記された巻物がある点は、現行の国章と共通しています。

ネパールの国章は、こうした歴史的な変遷を経て、国の自然、文化、そして新たな政治体制のもとでの国民の希望を映し出す象徴として、現在に至っています。

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