ネマニャ・ラドゥロビッチ

ネマニャ・ラドゥロヴィッチは、1985年10月18日にセルビアで誕生した、現代を代表するヴァイオリニストの一人です。彼の演奏は、技術的な正確さだけでなく、情熱的でエネルギッシュ、そして時に予測不能な個性的な表現で聴衆を魅了しています。

音楽への旅は1992年にヴァイオリンを手にするところから始まります。幼少期からその才能は抜きん出ており、早くも1996年にはベオグラード市から10月音楽賞を受賞。翌年にはセルビア教育省より「1997年の才能」として特別賞を授与されるなど、若い頃から注目を集めました。音楽教育は国内外で継続され、1998年にはドイツのザールブリュッケンにあるザール音楽大学でジョシュア・エプスタインに、1999年にはベオグラード芸術大学でデヤン・ミハイロヴィッチに師事しました。特に重要な転機となったのは、14歳でのフランスへの渡航です。パリ国立高等音楽院に進み、高名な教師パトリス・フォンタナローザのもとで学び、演奏家としての土台をより強固なものにしました。

彼のキャリアにおける特筆すべき出来事として、2006年のパリでの公演が挙げられます。これは、本来出演予定だった世界的なヴァイオリニスト、マキシム・ヴェンゲーロフが急遽キャンセルした際、その代役として指名され、チョン・ミョンフン指揮のフランス放送フィルハーモニー管弦楽団とベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を演奏したものです。この難しい状況下での成功が、彼の国際的な評価を一気に高めるきっかけとなりました。

ソロ活動に加え、ラドゥロヴィッチは様々な形態での演奏も精力的に行っています。ハープ奏者のマリエル・ノルトマン、ピアニストのローレ・ファーブル＝カーン、ドミニク・プランケード、スーザン・マノフといった優れた音楽家たちと頻繁に共演し、室内楽の分野でも才能を発揮しています。また、フランスの主要な音楽祭の一つであるニュイ・ロマンチック音楽祭とも深い関係を築いています。

愛器としては、1843年に名工ジャン＝バティスト・ヴィヨームによって製作された貴重なヴァイオリンを使用しており、その豊かな響きが彼の演奏に彩りを添えています。

彼の輝かしい受賞歴は、その才能と努力の証です。1998年にはロドルフォ・リピツァー賞国際ヴァイオリン・コンクールで5位に入賞し、国際的な舞台で頭角を現します。2001年にはイタリアで開催されたストラディヴァリウス・ヴァイオリン・コンクールで優勝。同年にはルーマニアのジョルジュ・エネスク国際コンクールでも栄冠に輝き、エネスコ・ソナタ第3番の解釈に対して特別賞も授与されました。2003年にはハノーファー国際ヴァイオリン・コンクールで第1位を獲得し、その実力を決定的なものにしました。フランス国内でも高い評価を受け、2005年にはヴィクトワール・クラシック・ミュージックの「インターナショナル・レベレーション・オブ・ザ・イヤー」、2014年には同賞の「ソロイスト・インスツルメンタル」を受賞しています。2006/2007年には「ライジング・スター」にも選ばれました。さらに、2017年には母国セルビアから国家的な栄誉であるカラジョルジェの星勲章を、フランスからは芸術文化勲章シュヴァリエを授与されるなど、その功績は広く認められています。

録音活動も積極的に行っており、主要なクラシックレーベルから多数のアルバムをリリースしています。初期にはトランザール・ライヴより、無伴奏ヴィオラ作品集やメンデルスゾーンの協奏曲集を発表。その後、デッカやドイツ・グラモフォンといった国際的なレーベルに移り、幅広いレパートリーに取り組んでいます。ヴィヴァルディの「四季」や、パガニーニの作品集、バッハの無伴奏作品、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲などの古典名曲から、「カーネ・ド・ボヤージュ」「東の旅」「バイカ」「ルーツ」といった独自のテーマに基づいたアルバムまで多岐にわたります。ピアニストのスーザン・マノフやハープ奏者のマリエル・ノルトマンとの共演盤も聴くことができます。近年では、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲や「クロイツェル」ソナタなどの重要なレパートリーにも取り組んでいます。

ネマニャ・ラドゥロヴィッチは、その卓越した技術と既存の枠にとらわれない自由な音楽性で、世界中の聴衆に新たなクラシック音楽の楽しみ方を提案し続けています。現代クラシック界において、最も刺激的で影響力のあるヴァイオリニストの一人として、今後の活躍が期待されています。

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