ネルソン・エディ

ネルソン・エディ（本名：ネルソン・アッカーマン・エディ、1901年 6月29日 - 1967年 3月6日）は、20世紀半ばにアメリカ合衆国のエンターテインメント界で活躍した声楽家であり俳優です。力強くも豊かな声量を持つバリトン歌手として、オペラやコンサートの舞台、ラジオ番組などで成功を収めた後、ハリウッドのミュージカル映画スターとしてその名を広く知られるようになりました。

ロードアイランド州プロビデンスで生を受けたエディは、14歳の時に両親が離婚するという家庭環境の変化を経て、声楽の道を独学で切り拓きます。正規の教育機関に頼らず、自らの力で歌唱技術を磨いていきました。その才能はすぐに認められ、1922年にはバリトン歌手として舞台に初めて立ちます。これ以降、彼はオペラ作品への出演、リサイタル形式のコンサート、そして当時大きな影響力を持っていたラジオ放送など、多岐にわたるメディアでその歌声を披露し、着実にキャリアを積み上げていきました。

彼のキャリアにおいて、映画界への進出は大きな転機となりました。1933年、彼は当時映画界の最大手の一つであったメトロ・ゴールドウィン・メイヤー（MGM）と契約を結び、俳優としての道を歩み始めます。初期の出演作を経て、1935年に公開された初の主演作『浮かれ姫君』（Naughty Marietta）で、銀幕の歌姫として絶大な人気を誇っていたジャネット・マクドナルドと共演を果たします。この作品での成功は、エディとマクドナルドという稀代のミュージカル映画コンビ誕生の瞬間でした。二人は互いの歌声と演技が絶妙に調和し、スクリーン上でロマンチックな物語を紡ぎ出すことで、観客から熱狂的な支持を得ました。

『浮かれ姫君』以降、エディとマクドナルドはMGM製作で合計8作品にわたる共演を重ねます。『ローズ・マリイ』（Rose-Marie）、『君若き頃』（Maytime）、『ニュウ・ムウン』（New Moon）といった作品群は、彼らの人気を不動のものとし、1930年代後半におけるMGMミュージカルの黄金期を支える大きな柱となりました。彼らの共演作は、オペレッタやミュージカルの楽曲を取り入れ、豪華なセットと衣装の中で繰り広げられる、視覚的にも聴覚的にも魅力的なエンターテインメントとして、世界中の観客を魅了しました。

しかし、その蜜月関係も終わりを迎えます。MGMに約7年間所属し、ジャネット・マクドナルドとの最後の共演作となった『I Married an Angel』（日本劇場未公開）に主演した後、エディは1942年にMGMを離れる決断をします。その後、ユニバーサル・ピクチャーズと2作品の出演契約を結びました。その第一作として選ばれたのが、1943年製作のテクニカラー大作『オペラの怪人』（Phantom of the Opera）です。この作品で彼はクリスティーヌの恋人であるアナトール役を演じ、怪人役のクロード・レインズ、クリスティーヌ役のスザンナ・フォスターらと共演しました。

続くユニバーサルでの第二作は、1944年の『Follow the Boys』（日本劇場未公開）でした。この作品では再びジャネット・マクドナルドとの共演が実現しましたが、『オペラの怪人』の仕上がりに対する不満などもあり、ユニバーサルとの契約をそれ以上延長することはありませんでした。

映画界での活動のピークを過ぎた後も、ネルソン・エディはその情熱を失うことはありませんでした。1950年代以降も、彼はレコーディング活動を精力的に続け、その素晴らしい歌声をレコードという形で残しました。また、成長するメディアであったテレビ番組にも積極的に出演し、新しい世代の視聴者にもその存在を知らしめました。生涯現役を貫き、最期はフロリダ州パームビーチのホテルでショーに出演中に脳溢血に見舞われ、1967年 3月6日に65歳でその波乱に満ちた生涯を終えました。

彼の名前は、ジャネット・マクドナルドとの伝説的なコンビを通じて、今なおミュージカル映画史に輝くスターとして語り継がれています。声楽家としての確かな実力と、スクリーン上での華やかな存在感を併せ持ったネルソン・エディは、エンターテインメントの歴史において重要な足跡を残した人物と言えるでしょう。

主な映画出演作（一部）

『浮かれ姫君』 (Naughty Marietta, 1935)
『ローズ・マリイ』 (Rose-Marie, 1936)
『君若き頃』 (Maytime, 1937)
『ポルカの歌姫』 (The Girl of the Golden West, 1938)
『ニュウ・ムウン』 (New Moon, 1940)
『オペラの怪人』 (Phantom of the Opera, 1943)
* 『メイク・マイン・ミュージック』 (Make Mine Music, 1946) ※声の出演

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