ノックスビル方面作戦

ノックスビル方面作戦は、南北戦争中の1863年秋にテネシー州東部で行われた一連の戦闘と軍事作戦です。この作戦は、アンブローズ・バーンサイド少将率いる北軍がノックスビルを占領し、チャタヌーガにいた南軍のブラクストン・ブラッグ将軍の部隊から派遣されたジェイムズ・ロングストリート中将が、バーンサイド軍によるチャタヌーガの北軍救援を阻止しようとしたものです。しかし、ロングストリートは独立した指揮官としての役割を果たせず、この方面作戦は南軍にとって大きな成果を上げることができませんでした。

背景と初期の動き

テネシー州東部は、その山岳地帯の特性から北部支持者が多く、エイブラハム・リンカーン大統領はこれを重要な戦略目標としていました。この地域は穀物や家畜が豊富で、チャタヌーガからバージニア州へと繋がる鉄道の要衝でもありました。リンカーンは幾度も指揮官を交代させ、この地域の占領を試みましたが、地形の難しさから容易には進展しませんでした。

1863年3月、アンブローズ・バーンサイドは西部戦線に配転され、オハイオ軍の指揮を執ることになります。バーンサイドは迅速なノックスビル進軍を命じられましたが、彼の第9軍団はユリシーズ・グラント少将の支援に回されたため遅れが生じます。そのため、ウィリアム・P・サンダース准将の騎兵隊と歩兵隊を先行させ、ノックスビルの鉄道破壊と南軍の通信網の混乱を図ります。8月中旬、バーンサイドはノックスビルへの進軍を開始しますが、カンバーランド峡谷を通るのではなく、南軍の側面を迂回するルートを選択します。この迂回により、南軍は防御態勢を整えることができず、バーンサイド軍は1日に48kmも進軍することができました。

チカマウガ方面作戦が始まると、南軍はバックナー将軍をチャタヌーガに呼び戻し、ノックスビル周辺の戦力は手薄になります。9月2日、バーンサイドの騎兵隊がノックスビルに無抵抗で入城し、翌日には主力部隊がノックスビルを占領します。9月7日には、カンバーランド峡谷を守備していた南軍のフレーザー准将が降伏を拒否しますが、バーンサイド軍の圧倒的な勢力に屈し、9月9日に降伏しました。バーンサイドはその後、ローズクランズ軍の支援として騎兵隊を派遣し、東テネシーとバージニアを結ぶルートを確保しようとします。しかし、チカマウガの戦いが迫る中で、ワシントンからのローズクランズ支援要請をバーンサイドは事実上無視し、新たに占領した地域と忠実な市民を守ることを優先しました。

東テネシー方面作戦の戦闘

バーンサイドがローズクランズ軍の支援を求められる中、東テネシーでは2つの小規模な戦闘が起こりました。

ブラウンツビルの戦い（1863年 9月22日）
北軍のジョン・W・フォスター大佐は、騎兵隊と砲兵隊を率いて南軍のジェイムズ・E・カーター大佐の部隊とブラウンツビルで交戦しました。フォスターの攻撃により、南軍は撤退を余儀なくされました。

ブルースプリングスの戦い（10月10日）
南軍のジョン・S・ウィリアムズ准将は、北軍の通信線と兵站を妨害するため、騎兵隊を率いて進軍し、東テネシー・バージニア鉄道の要衝であるブルズ・ギャップを占領しようとしました。しかし、10月3日にブルースプリングスで北軍のサミュエル・P・カーター准将の部隊と交戦し、撤退を余儀なくされます。その後、両軍は小競り合いを続け、10月10日には大規模な戦闘が発生しました。この戦闘で、北軍は南軍の前線を突破し、多大な損害を与えました。ウィリアムズ隊はバージニアまで撤退し、北軍は東テネシーにおける南軍の影響力を弱めることに成功しました。

ロングストリートのノックスビル侵攻

ブラクストン・ブラッグは、バーンサイドの勝利を受けて、バーンサイド軍がチャタヌーガの北軍を救援することを恐れ、ジェファーソン・デイヴィス大統領にジェイムズ・ロングストリートを派遣するよう求めました。ロングストリートは、チカマウガで南軍勝利に貢献しましたが、兵力で劣ることを理由にこの命令に反対しました。ロングストリート軍は歩兵約10,000名と騎兵5,000名で構成されており、対するバーンサイド軍は歩兵12,000名と騎兵8,500名でした。

ロングストリート軍は鉄道でシーウォーターまで移動する計画でしたが、輸送の遅延や物資不足により困難な旅となりました。11月12日に到着したとき、兵士たちは冬に必要な食糧や軍装を十分に持っていませんでした。一方、リンカーン内閣は、ノックスビルを防衛するようバーンサイドに命令を下します。グラント将軍はチャタヌーガから救援隊を派遣しようとしましたが、バーンサイドは南軍をノックスビルに引き付け、チャタヌーガへの合流を阻止するよう提案しました。グラントはこれを承認し、11月14日、ロングストリートはテネシー川を渡り、バーンサイド軍を追撃し始めました。

11月15日、ウィーラーの騎兵隊がノックスビルに接近しましたが、北軍の抵抗に遭い、川の北岸にいるロングストリートの本隊に合流しました。

ロングストリートのノックスビル方面作戦の戦闘

ロングストリートのノックスビル方面作戦では、主に3つの戦闘がありました。

キャンベル駅の戦い（11月16日）
ロングストリートとバーンサイドの両軍は、ノックスビルに向かう途中のキャンベル駅で遭遇しました。バーンサイドは交差点に先に到着し、ノックスビルへの安全な退却を確保しようとしました。ロングストリートは交差点の確保を試みましたが、バーンサイド軍が先に到着し、配置を完了しました。ロングストリートは挟撃を試みましたが、北軍は持ち堪え、混乱なく後退しました。

サンダース砦の戦い（11月29日）
ロングストリートは、ノックスビルの防御陣地の中でも脆弱なサンダース砦を攻略しようとしました。南軍は夜明け前に急襲を仕掛けましたが、北軍の鉄条網と外壕に阻まれ、甚大な被害を出して失敗しました。この戦闘は、ノックスビル方面作戦における決定的な敗北となりました。

* ビーン駅の戦い（12月14日）
シャッケルフォード隊がビーン駅付近にいたところ、ロングストリート軍はビーン駅を占領するため攻撃を開始しました。12月14日早朝から激しい戦闘が始まり、北軍は援軍の到着まで持ち堪えましたが、ビーン峡谷を抜けて撤退しました。ロングストリートは翌日に再攻撃を試みましたが、北軍の防御が固く、撤退を余儀なくされました。

方面作戦の後

ノックスビル方面作戦は、ビーン駅の戦いで終わり、両軍は冬の宿営に入りました。この作戦の唯一の成果は、チャタヌーガのブラッグ軍から戦力を引き抜いたことでした。ロングストリートは独立指揮官としての能力に疑問を持たれ、自信を失いました。一方、バーンサイドはフレデリックスバーグでの敗北からいくらか名誉を回復しました。ノックスビルが北軍の手に落ちたことで、東テネシーは戦争の残りの期間、北軍の支配下となりました。

この作戦は、戦略的な観点から見ると、北軍が東テネシーを確保し、南軍の資源と補給を妨害した点で重要な役割を果たしました。しかし、南軍にとっても、戦局全体を左右するほどの決定的な影響を与えたわけではありませんでした。両軍の戦略的な動きは、その後のチャタヌーガ方面作戦へと連鎖していくことになります。

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