ノット・レディ・トゥ・メイク・ナイス

「ノット・レディ・トゥ・メイク・ナイス」（Not Ready to Make Nice）は、アメリカを代表する女性カントリー・グループ、ディクシー・チックスが2006年に発表した楽曲です。この曲は、メンバーのナタリー・メインズ、エミリー・ロビソン、マーティ・マグワイアの3人と、ソングライターのダン・ウィルソンとの共作で、アルバム『テイキング・ザ・ロング・ウェイ』からの先行シングルとしてリリースされました。

制作の背景

この楽曲は、2003年にナタリー・メインズがロンドンのコンサートで、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領を批判したことがきっかけとなった騒動を背景に制作されました。この発言がアメリカ国内で大きな波紋を呼び、グループは激しい批判にさらされました。ラジオ局での楽曲の放送自粛や、コンサート会場でのボイコット運動などが起こり、彼女たちのキャリアは危機に瀕しました。

ナタリー・メインズは、この騒動について曲を作るにあたり、「説教臭くならないように、被害者意識が出過ぎないように、そして冷静になりすぎないように、バランスを取るのが難しかった」と語っています。また、曲のタイトルはダン・ウィルソンのアイデアによるものだと明かしています。エミリー・ロビソンは本作について、「特別な曲だとわかっていた。とても自伝的だから。そして正しく理解してもらわなくちゃいけなかった」とコメントしており、メンバーにとっても非常に重要な作品であったことが伺えます。

ミュージック・ビデオは、著名な映像作家ソフィー・ミュラーが監督を務めました。ビデオでは、メンバーが白と黒のドレスを身にまとい、力強いパフォーマンスを披露しています。

反響と評価

「ノット・レディ・トゥ・メイク・ナイス」は、アメリカのBillboard Hot 100では、2006年のリリース当時は23位に留まりましたが、翌2007年に再びチャートインし、最高位4位を記録。ディクシー・チックスにとって3度目の全米トップ10シングルとなりました。また、『ビルボード』のデジタル・チャートでは2位、アダルト・コンテンポラリー・チャートでは32位、カントリー・シングル・チャートでは36位を記録するなど、幅広い層からの支持を集めました。

2007年1月には、デジタル・シングルがRIAA（アメリカレコード協会）によってゴールド認定を受け、同年7月にはプラチナ認定を受けるなど、商業的にも大きな成功を収めました。

オーストラリアのARIAチャートでは、2006年7月23日付のシングル・チャートで初登場23位を記録し、翌週には18位まで上昇。その後、33週にわたってトップ50入りを果たし、年間シングル・チャートでは2006年に96位、2007年に98位にランクインしました。

この楽曲は、批評家からも高い評価を受け、2007年のグラミー賞では、最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀カントリー・パフォーマンス賞（デュオまたはグループ部門）の3部門を受賞しました。カントリー・ミュージシャンのシングルが最優秀レコード賞を受賞したのは、史上初の快挙でした。

『ローリング・ストーン』誌が選出した「2000年代のベスト・ソング100」では77位にランクインするなど、音楽史に残る名曲として評価されています。

カバー

「ノット・レディ・トゥ・メイク・ナイス」は、他のアーティストにもカバーされています。スウェーデンのカントリー歌手、ジル・ジョンソンは、ライヴ・アルバム『Livemusiken från Jills Veranda Nashville』（2014年）にこの曲を収録しています。

ディクシー・チックスの「ノット・レディ・トゥ・メイク・ナイス」は、政治的な騒動を乗り越え、自己の信念を貫く強い意志を歌った楽曲として、多くの人々に感動を与え続けています。

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