テイキング・ザ・ロング・ウェイ

ディクシー・チックス『テイキング・ザ・ロング・ウェイ』

『テイキング・ザ・ロング・ウェイ』（Taking the Long Way）は、アメリカのカントリー・グループ、ディクシー・チックスが2006年にリリースした7枚目のスタジオ・アルバムです。前作『ホーム』から4年ぶりのアルバムであり、グループにとって大きな転換期を示す作品となりました。

制作の背景

本作が制作される背景には、2003年に起こったナタリー・メインズの政治的発言に対するアメリカ国内でのボイコット騒動がありました。ロンドン公演中、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領を批判したことが発端となり、ラジオ局による楽曲の放送禁止やメンバーへの脅迫といった事態に発展。この騒動は、彼女たちの音楽活動に大きな影を落としました。

しかし、ディクシー・チックスはこの逆境を乗り越え、新たな音楽を生み出す原動力としました。メインズは「このアルバムを作らないと乗り越えられなかった。たとえ誰も聴いてくれなくても」と語っており、本作には彼女たちの葛藤や決意が込められています。

サウンドの特徴

プロデューサーには、ロックやヒップホップなど幅広いジャンルで実績のあるリック・ルービンを迎えました。ルービンは、トム・ペティやグラム・パーソンズのようなカントリー寄りのロック・アルバムを目指したと語っています。その言葉通り、本作は従来のディクシー・チックスのイメージにとらわれず、ロック、ポップ、カントリーなど様々な要素を取り入れたサウンドが特徴です。

ダン・ウィルソンとの共作も本作の重要な要素です。セミソニックの元メンバーであるウィルソンは、ルービンの紹介で本作に参加し、多くの楽曲でメンバーと共同で作曲を手がけました。また、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのマイク・キャンベルとベンモント・テンチ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミスなど、豪華なミュージシャンがレコーディングに参加し、サウンドに厚みと深みを与えています。

ハリケーン・カトリーナ支援

ケブ・モと共作した「アイ・ホープ」は、2005年のハリケーン・カトリーナ被災者支援チャリティ・コンサートで初披露され、先行配信されました。アルバムにはジョン・メイヤーがゲスト参加した別バージョンが収録されています。

評価と受賞

『テイキング・ザ・ロング・ウェイ』は、アメリカのBillboard 200で1位を獲得し、ダブル・プラチナに認定されるなど、商業的にも大きな成功を収めました。しかし、批評家からの評価は賛否両論でした。オールミュージックは「カントリーから離れていくことへの恐れを感じさせない、確信に満ちた作品」と評価した一方で、ガーディアン紙は「サウンドは以前よりも保守的になった」と評しました。

2007年の第49回グラミー賞では、最優秀アルバム賞、最優秀カントリー・アルバム賞、「ノット・レディ・トゥ・メイク・ナイス」が最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀カントリー・パフォーマンス賞（デュオまたはグループ部門）を受賞し、主要4部門のうち3部門をディクシー・チックスが独占するという快挙を成し遂げました。

収録曲

1. ザ・ロング・ウェイ・アラウンド
2. イージー・サイレンス
3. ノット・レディ・トゥ・メイク・ナイス
4. エヴリバディ・ノウズ
5. ビター・エンド
6. ララバイ
7. ラボック・オア・リーヴ・イット
8. サイレント・ハウス
9. フェイヴァリット・イヤー
10. ヴォイス・インサイド・マイ・ヘッド
11. アイ・ライク・イット
12. ベイビー・ホールド・オン
13. ソー・ハード
14. アイ・ホープ

『テイキング・ザ・ロング・ウェイ』は、ディクシー・チックスの音楽的な冒険心と、逆境を乗り越える強さを象徴する作品です。騒動や評価、または音楽性など様々な観点から見ても非常に興味深いアルバムと言えるでしょう。

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