ノリクム

ノリクム：古代史における鉄の王国

ノリクムは、現在のオーストリアとスロベニアに位置する古代の地名で、かつてケルト人の王国、またはローマ帝国の属州として存在していました。その領域は、ドナウ川を北の境界とし、西はラエティア属州、東はパンノニア属州、南はイタリア属州と接していました。

地理と住民

ノリクムには、当初パンノニア人が住んでいたと考えられていますが、ガリア人の大移動後はケルト人部族が支配するようになりました。中でも、ノーレイアを首都とするタウリスキ族が有力で、ローマ人は彼らをノリキと呼んでいました。この地の住民は勇敢で好戦的な気質を持っていたと伝えられています。

経済

国土は山がちで土壌も貧しかったため、農業よりも牧畜が盛んでした。しかし、ノリクムは鉄鉱石の産地として知られ、「ノリクム鋼」はローマの武具の材料として広く利用されました。また、金や塩も産出し、サリウンシアと呼ばれる香水として用いられる植物も多く育っていました。ローマ人の進出後は、湿地の干拓や森林の開墾が進められました。

歴史

ノリクムは、ケルト人などの北部民族がイタリアに侵攻する際の足がかりとなる場所でした。ハルシュタットの墓地遺跡の考古学調査からは、文書が残る以前から活発な文明が存在していたことが示唆されています。リッジウェイは、ホメロスの物語に登場するアカエア人はノリクム周辺を発祥とするという説を唱えています。

ローマによる統治

紀元前、ノリクムは独立国としてローマと交易を行っていました。紀元前106年から紀元前48年のカエサルとポンペイウスの内戦ではカエサルを支持しました。紀元前16年にはローマ帝国のイストリアを侵略しましたが、敗戦によりローマ帝国に併合され、ノリクム属州となりました。当初は皇帝の属吏が管理する君主国でしたが、西暦40年頃にローマ帝国の属州に完全に併合されました。ディオクレティアヌス帝の時代には、ノリクムはノリクム・リペンセとノリクム・メディタラニアンに分割されました。

主要都市

ウィルナム（現マリアザール）
オヴィラワ（現ヴェルス）
セレイア（現ツェリェ）
ユヴァウム（現ザルツブルク）
ローリアクム（現ロルヒ）

ノリクムは、鉄の供給地としてローマ帝国の発展に貢献し、また、ケルト文化とローマ文化が交錯する地として、独自の歴史を刻みました。

関連項目

ノリック語

外部リンク

* Noricum（英語）

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